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48.魔王

メイドさんに案内された部屋は客間らしく、「こちらにお召し替えください」と服を差し出される。

え、なにこれなにこれ。


「主様が服装を気にしてらっしゃるとお伝えしたところご用意いただけたようです」

それってすごく厚かましいお願いじゃないですか!!!

まだ見ぬ魔王の印象悪くなったらどうしてくれるんです!!


ヴェインにしてはわたしの意図をぶっ飛ばしてくれたなと思って変な顔をしてしまったのか、

「僭越ながら聖女様、魔王様は是非と仰っています」

安心させてくれるようににこりと微笑むメイドさん。



それがどこまで本当なのかちらっと視ようとしたのですが。

この方々言語が本来違うんでしょうか。

心の中が視えません。

正しくは、視えるのですが何を言っているのかわからない、です。


意外と制約がおおいですね、この能力。


「ご厚意ありがたくお受けします、すぐに着替えますので…」

「お手伝いさせていただきましょうか」

真意が見えない彼女の手を借りることは少し躊躇われる。



その躊躇いを的確に察知してくれたヴァイトがメイドさんから服を受け取る。

「主様の用意は僕たちがやるよ、ちょっと待っててね」

にこりと微笑んで更にぱちりとウインクまでメイドさんに飛ばすと、そのメイドさんはにこりともせずに部屋を出ていきました。



「うーん、主様以外には厳しいみたいだね。さ、着替えようか」

明らかに不愛想だった対応には特に気分を害した様子もなく、さっとわたしの上着に手を掛ける。

「自分でやりますから!!」

上着を剥くヴァイトに思わず叫ぶ。

早いし抵抗が無意味!力つよ!


「でもこれ主様一人で着れない服だよ」

「ですからこのまま大人しくしていてくださいね」

いつの間にかヴェインに腕を取られていて動けない。



この隙あらば世話を焼こうとするのなんとかなりませんか!!いえわたしが馬鹿な命令の仕方をしてしまったのが悪いのはわかってるんですが。

転移で逃げ回ってもどうせいつかは捕まるし一人で着られないのは確かなので抵抗はやめます。

不服だということを少しでも示せたらいいんです、ええ。

わたしは!不本意なんですからね!



「主様、魔族は視えませんでしたか?」

「その…視えるのですけれど、わからないんです。言語が違う…のでしょうか」

この指輪では人の言葉しかわからないようです、と続ける。


「なるほど、それで不安げなお顔でしたか。であれば心配はありません。魔族領こそ主様の恩恵を一番受けるのです。害そうとするはずがありませんから」

そう自信満々に告げられでも、わたしは直接視たものしか信じられない。

相手が一応この世界で一番信用しているヴェインでも、です。


それに。


「…害すつもりはなくても、あなたたちみたいに引き込もうとするかもしれないじゃないですか」

強引に、しかもよくわからないままのわたしを勝手に主にしたこと忘れてませんからね!!


「どうしてもここに来る前にやっておきたかったんです。」

なんだか少しだけ眉を下げた困ったような顔で微笑まれ、疑問符が浮かぶ。

「なんですか、どういう…」


「主様、できたよ」

続きの話はさせてもらえないらしく、鏡の前に誘導される。

なんというか、黒のゴスロリっぽいドレスを着ていました。

背中にたくさん編み上げがしてあるので一人では着れなかったようです。


「うん、よく似合ってるよ。」

「大変お美しいです」

2人が口々に褒めてくれるのだけれど、わたしは少し複雑な気分です。

コスプレっぽいからでしょうか。


うーん、似合ってますか?これ。

そんなに顔の濃くない日本人顔にはせめてもう少ししっかりめのメイクを所望したいところです。


しかしこれが正装だというなら仕方がないでしょう。

メイクのお願いなんて厚かましくてできませんし。

折角用意してもらった服ですし文句も言えず、わたしは魔王に会うことにしました。



扉の前で待っていてくれた先ほどの赤髪のメイドさんの先導で、お城というより貴族の御屋敷風の通路を進みます。

落ち着いた茶色地の絨毯の模様も花柄ですし、淡い緑基調の壁紙や装飾された扉もすべて女性の部屋を彷彿とさせるデザイン。

更にとても日当たりが良く、全体的に明るいことから、やはりここは聖女の誰かが住んでいたと思う方が自然です。


あ、いえなんとなくのイメージで魔王は男性だと決めつけていましたが、もしかするとその魔王の趣味かもしれないですよね。

幼女という可能性だってあります。




なんて勝手なイメージ像を作り上げたすぐあと。

他の扉とは違って両開きの大きな扉が開かれると、そこには息を呑むほど美しい方がこちらに笑いかけていました。


魔王というのだからこう…漆黒なイメージだったのですが、そもそも"澱み"が白っぽいのだから予想しておくべきだったのです。


肩辺りで一直線に切り揃えられた毛先は美しい乳白色。

根元になるにつれて紫紺になるので、この白髪は"澱み"の影響でしょう。


こちらを見据える、というか射貫くようにというか、穴が開いてしまいそうなほど凝視している瞳は、髪と同じように白みがかってはいますが、ところどころが海に映った夕焼けのような美しい煌めきを放っている。



髪や瞳の神秘的な色味だけでなく、顔立ちもヴェインやヴァイトに見慣れたはずのわたしですら目を奪われてしまうほど整っていました。

正直この方にこの顔で何かを迫られたら断れないでしょう。


美形は有無を言わさない力が強すぎます…!

というかわたしの耐性が低すぎるんでしょうか。

仕方ないですよね、地球にはこんなにほいほい美形は転がっていませんから!


「やっときたな、私の聖女。名は?」

少年と青年の間のような危うい魅力は容姿だけでなく声もでした。

なんでしょう、耳というか脳に響きます。


うぐう、ダメージが大きいです…!


「リン、と名乗っています」

精一杯平静を装って口を開きます。

うっかり慣れてしまった偽名の方ですが、まあまだこの人を信用していないのでいいでしょう。


「では今はリンと呼ぼうか。」

にこり、と微笑む魔王。偽名だというのはバレているのでしょう。

でも気分を害した様子はありませんね、よかったです。


「よく来た。私はここを動けぬ身。先代もその前も、聖女自らが訪れるのを待つことしかできなかった。君の訪問を嬉しく思う」

なんて蕩けるように微笑まれ、心臓が跳ねすぎて死ぬかと思いました。


え、なんでしょうこれ。

いくら魔王の顔が整いすぎているからってわたしの反応はおかしくありませんか?

何か魔法つかったりしていませんよね!?


「私の名はユーフォミア。君にだけ、呼ぶことを許可しよう」

魔王のお名前は大切なものらしく、他の誰も呼ぶことが許されていないそうだ。

じゃあわたしも不要なんですけどとは言いづらいです。

だってすごいいい笑顔なんですもの。


「ええと、じゃあユーフォミアさん」

「ユーフォミアで構わぬよ、リン」

構わぬというかそう呼べという圧を感じたんですけど!


「…ユーフォミア、わたしはこの後白と黒の最上級精霊に会いにいくつもりなんですが」

呼び方はまあいいです、さっさと屈しておきましょう。話も進みませんし。

と、彼には場所だけ教えてもらえませんかとお聞きしようとしたのですが。


名を呼んだことで殊更嬉しそうに微笑みながら、

「もちろん君の行く先が私の行く先となる。喜んで同伴しよう」

と、わたしの言葉が終わるのを待たずに決定事項を告げられました。



おっといつからそういう話になりましたか??

え、魔王ついてくるんですか?なぜ?



わたしだけがわかっていないのかと困惑してヴェインとヴァイトを見ると、2人ともいい笑顔のまま魔王を睨んでいる。

「飼い犬如きに我が屈するとでも?」

なんだか余裕の笑みで2人を挑発してすらいます。


ぱっと見は全員笑顔なんですけどね、怖いです。


「ま、待ってください。わたしだけ状況を把握できていないようなのでヴェインとヴァイトの発言の許可を求めます」

わたしが慌てた様子なのを見て取ってか、それとも2人に説明させようという魂胆か、どちらでも構わないけれどあっさり許可はでたのでわかりやすく!簡潔に!お願いしますよ。



「魔王は必ず"聖女様"に同行することを申し出ます。それを断った聖女は歴史上一人もいません。そのため、ここ魔族領は聖女巡礼の旅の最後の土地になっています。」

ヴェインが苦々し気に説明してくれますが、つまり余計な騒ぎにならないようにということですか?

「先に言ってくださいよそういう大事なことは!!」

思わず叫んでしまいました。いけない。冷静になりましょう。



「主様が『では魔王の住処に行きましょうか、元凶を断つのが一番です』と仰ったので、魔王を討伐でもされるのかと…」

どうしてそこで少し嬉しそうにするんですかヴェイン。

「あ、さすがにそれは違うなってすぐ気づいたからね!」

慌ててフォローするヴァイトも残念そうな顔を隠しもしません。


えっと、魔王のこと嫌いなんですか?会ったことなんてありませんよね。


あくまで"澱み"の拡散が抑えられるのではないかという考えでの"元凶"だったんですけど。

発生源を抹殺するとか最も聖女らしくないじゃないですか!

その考えはてっきり伝わっていたのだとばかり思っていたのですがわたしと彼らの意思疎通が実はうまくいっていなかったことが露呈しましたね。


「…だって、僕たちだけの主様じゃなくなるから」

「俺たちでは主従の契約を強引にでも結ぶことが精一杯の魔王に対する対抗でした」

申し訳なさそうに二人ともしてくれるのだけれど、話が良く見えませんね。

なぜ2人は魔王に対抗する必要が?



ユーフォミアはわたしの恩恵を誰よりも受けるのだから、誰よりもわたしを大切にしますよね?



「ええと、ユーフォミア?」

こちらにも話を聞こうと顔を見る。

くっやっぱり整いすぎていませんか?顔を見る度に寿命が縮みそうなんですけど。



「君がなんと断っても私は付いてゆくよ?理由はわかるね」

穏やかな笑顔を湛えたままぐいぐいきますね、さすが魔王。


このお城にはどうやら"澱み"を抑える効果があるようですが、その外には一歩たりともでたことがないのでしょう。

しかしそれも、"聖女"と同行するなら別、と。


もしかすると代々そうだったのかもしれませんね。

いえ何年かはわかりませんがこの建物から出られないなんてやはりとても辛いでしょう。

わたしのあの馬車の一か月なんかよりずっとずっと。


わたしが色々と考えつつ黙っているのを見かねたのか、魔王がぽつりと漏らしたのは。

「あまりこれを言うと脅しのようで嫌だったのだが…私はここに既に200年近くいる」

という日本人の良心とか罪悪感とかをずぶずぶと抉ってくるお言葉でした。



「200年…」

「魔王の寿命はおよそ300年。もう折り返しを過ぎてしまった」

追い打ちをかけるのをやめてください。

更にはその、『魔王として生まれたからには仕方ないのだが』みたいな諦めた笑顔も!

経験上そういうお顔は演技だってわかってるんですから。


でも事実かは確認はできない。

魔王もメイドさんと同じく何語かわからない言葉だったから。


「…ユーフォミアの話が本当か証明できますか?」

気分を害する可能性もあるけれど、こればかりは譲れない。

申し訳ないけれど疑いますよ。


「そうだな、白と黒の最上級精霊の話であればリンは信じるか?」

「そうですね、信じます」

と、そう答えてからやらかしたことに気づきました。


少なくともそこまでの同行を許可したことになってしまったじゃないですか!

ほらもう魔王も凄まじくいい笑顔です!!


メイドさんたちが慌ただしく「魔王様の外出準備を!!」とかやってるの聞こえてきてます。

ヴェインとヴァイトの視線が痛いですね!

わたしが迂闊だったのはわかっていますから!










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