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46.第五都市

引き留めようとする使用人や街の人々の見送りをさらっと済ませ、早朝に家を出ました。

聖女のお勤めが旅であることはわかっているようなので、しつこくはされないんですけどね。


いつものお店で朝食を済ませ、子供たちにも別れを告げます。

こちらは可愛かったので思わず長居してしまいましたけれど。

次に会うことがあれば、その時にはもう少し顔色なんかが良くなっているといいのですけど。




そうして出立できたのはまだぎりぎり午前中なのでセーフということにしましょう。

「第一都市より規模は小さいでしょうし、滞在も短く済むでしょう。はやく魔族領に行きたいです」

「主様はどうして早く魔族領に行きたいの?」

そういえば言っていませんでしたっけ。


はやくすべての最上級精霊と契約して、魔法を今よりもっと使えるようになっておきたいのですよね。

いずれ聖女の力が使えなくなるのだから、なるべく早く契約を済ませ、どんな魔法でも使えるように練習はしておくべきです。

ヴェインにも教わるべきですね。


そう告げると、「聖女の力は消えないと思うよ」というヴァイトに首を傾げる。

「ですが聖女の力はこの世界の澱みを吸っているようですし…」

「うん、だからだよ。」

認識の祖語があるようでさらに首を傾げざるを得ない。


わたしは"澱み"をすべて浄化するための旅をしているのでは?

すべて無くなれば聖女の力は使えなくなると思っていたのですけれど。


「主様、魔族領では"澱み"を根絶することはできませんよ」

「え、そうなんですか!?」

「はい。そもそも魔族領には普段から"澱み"は存在します」


それは魔族領には魔王が住んでいるからだそうで。

私が読んだ本には確か眠りについていると書かれていましたが、あれは子供用の説明のようです。

眠っているのは力で、魔王は普通に健在だそうで。

その魔王から生まれる"澱み"が増えすぎると人間領に広がってしまうらしい。

それが緩く蔓延したころ聖女が召喚され、浄化して歩くのが聖女のお勤め。


「あれ、では仕事としては"魔族領"にいく必要はないですか?」

「いえ、そんなことはないですよ。率先して赴く必要は確かに無いですが、赴くことにはなっているはずです」

確かにベネディクトさんにもらった魔道具に示された道順では最後になっていますね。



魔族たちは強いので魔物が出現しても問題なく倒せるし、なんならその素材を人間領との交易品にしている。

それでも"澱み"が濃すぎると強すぎる魔物も現れるし、出現の回数も増える。

それは彼らの手にも余る。


更に"澱み"が濃くなればなるほど魔王の力の覚醒に近づく。

力が目覚めるとどうも制御不能になり世界が滅びるのだとか。

誰も試したことがないので事実かはわかりませんけれど、普通は試そうとは思いませんよね。


「それならわたしが行っても嫌がられないんですね、よかった」

流石に行って邪険にされるならこそこそ行きます。



それにしても魔王って可哀想ですよね、存在しているだけで害を振りまいてしまうのですから。

居るだけで大歓迎の聖女とは真逆の存在なのですね。




***




話をしていたらあっという間に第五都市に到着したのでした。

この双子本当にすごいです。

ずっとわたしを交代で乗せて休憩なしで走ってくれました。

もちろんわたしも微力ながら絶えず癒しをかけてサポートはしていますよ!



その日は早めに休み、翌朝。



「ヴェイン、いつものようにお願いします」

買い物と明日教会に集まった人を癒すので来るように宣伝してもらう。

その間わたしはヴァイトとお勉強です。


意外とヴァイトのほうが物知りで、教えるのが上手くこの世界のことを色々と教えてくれる。

いえ、ヴェインは説明下手なだけかもしれませんけれど。


ただし上流階級のマナー以外。

これを学ぶと「主様らしさが損なわれる」とかいうよくわからない理由で断固拒否されている。



どういうことですか。

今現在のマナーがなっていない状態がわたしらしさって嬉しくないんですけれど。



さすがに知識をわたしに教えてくれている部分で嘘はつかないと信じています。

わたしも召喚された当初と比べて随分丸くなりました。

ヴェインとヴァイトのことをわりと無条件で信じるようになりましたから。

視てもわからないので諦めたというのもありますけど。


実演を交えて教えてくれたのですが、"主従の契約"を結ぶと互いに互いを傷つけられない。

わたしは恐る恐る彼らにナイフを突き立てたし、彼らもわたしにナイフを突き立てて示してくれた。

何かにはじかれるように、ナイフは皮膚の少し手前でぴたりと止まって微塵も動かなかった。

一応傍にいて害することはできないと示してくれたわけなので、まあいいかと思うことにしたのです。




「主様、今日は何にします?」

「そうですね、もう少し魔族領について知っておきたいです。」


魔族領はこの大陸から少し離れた島すべてを差し、現在ユミディーテ王国の第五都市から橋を渡っていくしか方法がない。

世界の半分じゃなかったんですか。

あ、海を含めてますかね?

船で海を進めば海に巣食う巨大な水棲の魔物に航海を邪魔されるから、陸路が一番安全。

そんな海に棲む魔族もいるそうなので、領土は世界の半分に相当するのかもしれません。


島全体で魔物が多くあらわれるため、あまり旅行などで好まれる場所ではないが、自然の美しい風光明媚な土地で、きちんと対処さえしていればのんびりと観光もできる。


魔族には吸血種やエルフ種、ドワーフ種など様々な種が存在する。

彼らは心臓の代わりに魔石を有し、それが魔族と定義づける特徴となる。

「へえ、そういう違いだったんですねえ」

「魔族領に国はなく、種族の長が集まって議会を開く民主制で政は執り行われているよ」


この世界に民主制という言葉があったのだと少なからず驚いた。

全部君主制だと思っていたのですよ。


「王様がいないんですね?元首は?」

「あれ、主様の国も今はそうなの?」

わたしが民主制の意味を理解していることに目を丸くされる。


「そうですね、今は…ん?前回の聖女ってそんなに前ですか?」

前回が何年前かはわからないけれど、日本が民主制になったのはそんなに最近のことではない。

明治時代の頃だと記憶している。

「うん、200年は前だよ」

であれば確かに全然違うなと納得する。


そういえば甘いお菓子程度で喜んだというのだから更に前かもしれない。

こちらとあちらの時間の流れが違うのかもしれませんね。



「で、その元首っていうのが魔王なんだけど」

「え?」


その魔王、健在とはいえさすがに表立って活動しているとは思っていなかったのですが。

「力が抑えられた状態っていうのが正しいかな。それが溢れるようになると、本人でも制御できなくなるんだって」

魔王が住む城には封印が施されており、"澱み"の放出を抑えたり力の成長を妨げる効果があるらしい。


「なんでもすっごく昔の聖女様がそうしたって。」

「結界の力とかがあったんでしょうか。」

「かもしれないね」

そうしなければ世界を滅ぼしてしまうだなんて、なんて生きづらいんだろう。


魔王という生き物にこそ、"聖女"は必要なのではないかと思う。

きっと自分の傍に置いておきたいだろうに。




というところまで理解して今日の勉強は終了。

ヴェインが帰ってきた。











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