45.震撼
翌日、のんびりと子供たちと共に食事を取っていると、ざわざわと騒がしくなってきました。
そういえばヴァイトもヴェインも子供たちと触れ合うことについては何も言わないのですよねえ。
子供はセーフなんでしょうか、なぞです。
何歳までセーフなのかちょっと気になるところです。
と、突然輪に男性が飛び込んできました。
「聖女様!これ本当ですか!!」
なにやら新聞のようなものを持っていますね。
彼が誰かわからないんですけど…
「ちょっと見せてね」
差し出された新聞をヴァイトがひょいっと掬い、彼がわたしにこれ以上近づかないようにさり気なく進路を塞ぐ。
うーん、彼はまだ若そうですが、わたしより背は高いので10歳やそこらの子供ではなく少年、といったところでしょうか。
そのあたりがラインですか?
「ああ、仕事が早いんだね、ユミディーテの国王は」
ヴァイトが示すその記事は、『聖女様はヘンドラー公国を訪れない可能性を示唆』とあります。
「本当ですね、立派な王様なんですね、グスタフさんって」
これが国外へ出るのにはもう少しかかるでしょうが、それも数日といったところでしょう。
わたしの意図をしっかり汲んでくれたいい記事です。
「聖女様どうしたのー?」
まだ字が読めないようで、記事を読むようにせがまれますが面白くないと思うのでやんわり断りましょう。
「何でもないのですよ、たいしたことではありません」
…よね、多分。
きっとヘンドラー公国の方もそのうち直接コンタクトを取ってくるでしょう。
その時に考えることにしましょう。
慌てて来た男性、いえ少年ですか。もわたしが笑顔なので「なんだ大したことなかったのか。お騒がせいたしました」と頭を下げて去っていきました。
大したことがないとは?と思ったんですけど、『聖女様のお心が穏やかでよかった』とつまりわたしが害されたのだと心配してくださったんですね。
この世界の方々は本当にお優しい。
彼のお陰で情報を得たので更にありがたいですね。
***
親兄弟を連れてきた子供たちと食事を終えたあと、子供以外は仕事なんかで帰ってしまった。
残った子供たちには服をプレゼントしたいので服屋に案内してほしいと申し出ると、下町の繁華街へ案内してくれた。
子供たちは素直に喜んで受け取ってくれるのでかわいいですね。
わたしももしかしてこの態度を見習ったほうがいいのでしょうか…
王宮の周りの街とは雰囲気ががらりと変わり、賑やかで姦しい。
全体的に薄汚れてはいるけれど活気はあるようで、それがこの脳筋王国らしく純粋に好ましく思います。
総勢20名の子供を引き連れ、このあたりでは唯一新品の服を取り扱う屋に足を踏み入れる。
どうやらここと、もう一軒古着屋しか存在せず、この子達は古着屋の服しか着たことがないらしい。
それならば、と新品の服を扱う店にやってきたのだ。
どうせなら好きな服をあげたい。
「では好きな服を選んでください。」
敢えて何着、とかは言わないでおいた。
今日限定の施しなのだから、思いっきり甘えて欲しい。
いつでもできないし、どこででもはできないけれど。
せめて目の前にいる子供たちが今この瞬間だけでも笑顔になってくれるならばわたしは満足だ。
今のわたしが精一杯できることだから。
「お騒がせしてごめんなさい」
店主に詫びると、とんでもないと首が千切れそうな勢いでぶんぶん振っている。
「あの、お詫びになるかわかりませんがたくさん買いますので…」
「と、とんでもない!!聖女様からお金なんていただけませんよ!!」
「それはいけません。わたしは貴方を困らせるために来たのではありませんから」
と笑えば涙を流しながらこちらを見られる。
この世界の方々って少々涙腺が脆いですよね。
大した事はやっていないんですけれど。
"聖女"らしいと思ってくださっているなら僥倖ですね。
言ってしまえばこれも滞在中することがないので暇をつぶしているようなものですしね。
やがて子供たちが次々に服を持ってくるので、
「あなたにはこれも似合うと思いますよ」
とリボンや帽子のような小物も追加して包んでもらう。
全員が嬉しそうに顔を綻ばせるので、わたしもつられて頬が緩む。
「子供たちの笑顔って本当素晴らしいですよねえ」
平和の象徴っていうか、子供が笑顔ならばそれだけで世界は幸せですよね。
「主様のそういうところが聖女様なんだと思うよ」
「そうですね、主様は本当に聖女様だと思いますよ」
他の人がいるので言えませんが、あなたたちわたしがこれを暇つぶしでしかも演じてやっているって知っているでしょうに。
その上でどうして"聖女様"なんて言葉が出てくるんですか。
子供たちと別れ、空を見ればすっかり"澱み"は浄化されたようだった。
「浄化が終わったようです。明日の朝出発しましょうか」
ふかふかのベッドは名残惜しいですが、これ以上滞在する宿でまで"聖女様"の振りするのは疲れてしまいますからね。
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『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着される』
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