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43.食事

この国の食べ物には少し…いえかなり香辛料が多い。

ハーブも多い。

日本人の舌と鼻には刺激が強すぎる味なのですよね。

だから初日に苦手だと気付いた後はヴェインの作る食事しか食べていなかったわけなのですが。


流石に今日はそうも言っていられませんよね…

既に漂うスパイシーな香りに表情を変えないようにしつつ食卓に付きます。

食事は不要と言っておけばよかったですね、明日以降はそうしましょう。


「ヴェインとヴァイトも一緒に食べましょう」

子供たちを送って帰ってきたヴァイトにも声を掛けます。

凄まじく早かったんですけど抱えて走ったんでしょうか。


なるべく二人に食べてもらおうという苦肉の策ですね。

ヴァイトがさっき買ってきてくれたサンドウィッチはスパイシー成分控えめでなんなら美味しかったです。

さすができる。


ですがこの香りから察するに、"聖女様"のために高価な香辛料、たくさん使ったんでしょうね…


「みなさんは食事はどうされるんですか?」

使用人の一人に尋ねれば、わたしに提供した食事の残りが賄いになるんだそうで。

であれば無理に食べなくても無駄にならないと踏んで、わたしの分を少なめにしてもらうようにお願いする。


もちろん理由は、「さきほど子供たちとたくさんサンドウィッチをいただいてしまって…」です。

恥ずかし気に伝えれば『拝見しておりましたとも!!なんてお美しいお方!!』となぜか称賛していただけたのでおそらくご不満はないでしょう。

よかった。



にっこり笑顔を湛えたまま手を動かして口に運び咀嚼する機械になります。

こころを無にして。

ヴェインとヴァイトがそれとなく手伝ってくれるお陰で、本当に無理なもの以外食べきることができました。

それでも口が痛いですが。


「申し訳ありませんが明日以降食事は不要です、外にでる用事がありますから」

本当に申し訳ないという顔をし、家令に詫びておきます。



残念そうな家令を後目に早々に部屋に引っ込み、今日は休むことにしたのでした。




***




ベッドは広々としていて最高です、ふかふかです。

ヴァイトとヴェインにも部屋はありましたが、防犯の面で狼姿で寝具(おふとん)になってもらいます。

二頭の巨大な狼が横たわっていても余裕の広さがあるなんてありがたいですね。





「そういえばなんですけれど」

「どうしました、主様」

「ヴェインとヴァイトは狼の姿から戻ると服を着ていますけどどういう仕組みなんですか?」

ずっと気になっていたのですよね。


「僕たちの服が特別なんだよ、主様」

「え、そうだったんですか!?」

まさかの服のほうの仕組みでした。

「俺は自分でやってますが、服に魔法を掛けるんです。緑の精霊の管轄の、成長と幻術の魔法を組み合わせて使います」

「ん?ではもしかして毎回服は破れていますか?それを幻術で誤魔化して成長で修復している…?」

「ご名答、さすが主様です。獣人用の服はそういう仕組みになっています」

思っていたより力業でびっくりです。


つまり、獣化しているときは幻術で見えないけれどいたるところが破けた服を纏っていて、

人化したときには修復された状態になっている、ということですね。


「それって確実に全裸のタイミングがあるってことになりませんか」

成長の魔法での修復にどれほどかかるのかわかりませんけど…と思えばそこは一瞬で済むらしい。

よかった、うっかり見てしまったらどうしようかと思いました。


自在に獣になるのはとてもファンタジーなのに、服に関してはなんだか現実的なのですね。




***




翌朝、悲しいことに侍女の一人に「舞踏会の準備が必要ですので御昼にはお戻りください」と言われてしまった。

夜から始まる舞踏会にそんなに準備することありますか!?と食って掛かりたかったのですが抑えました。


朝食はお願いしてあった通り用意されていなかったので、外に食べに行きます。

さも用がある感じでいましたし、護衛は撒いたので大丈夫です。


「ヴァイト、わたしが食べられそうなものってありました?」

「安い大衆向けの食事なら香辛料少なめだったよ」

高価な料理であればあるほど高価な香辛料をぶち込んでいるらしい。

今日の舞踏会に出される食事が怖い。



ヴァイトが昨日のうちに見繕ってくれていたお店で食事を済ませます。

「ここここんな貧しい食事を聖女様にお出しするわけにはいきません!!」

と謎の抵抗も受けましたけど、

「庶民の方と同じ食事をしなければ見えないものもありますよ」

と聖女スマイルで押し切りました。



本当わたしの口って思ってもないことがするすると言える口でよかったです。

見えないものがなにかはご想像にお任せします。わたしにもわかりませんし。



このあたりは昨日の子供たちの住むエリアでもあったようで、見覚えのある顔がちらほらこちらを覗いている。

「今日も一緒に食べますか?」

と声をかけてみると嬉しそうに近寄ってきたので、わたしは"ご飯をくれる人"に位置付けられたような気がします。

ですが昨日の息の詰まるような食事よりずっと楽しいのは確かです。


ずらりと並んだ使用人たちがじっとこちらを見ているなんて本当ぞっとしました。


このお金もフロレンティア王国とかこのユミディーテ王国でもらったお金ですしね。

どこで何を買っても代金は不要と言われていますが、どこが負担するシステムかわからないのでもちろん支払います。


お店の負担だとしたらこの小さな料理屋では大打撃でしょう。

おそらくわたしがこういった大衆のお店を使うのは予想されていないでしょうし。


「聖女様!」

と笑顔を見せる子供たちに話を聞いてみれば、

「きのう 聖女さまのおかげで おかあさん治ったの!だから、うれしいの!」

とか、

「父さんが働けるようになったからおれ学校に行けるようになったんだ!」

といった感謝の言葉が次々に湧いてくる。


全部昨日も聞きましたけどね。

それくらい喜んでくれているのだと思ってにこにこしておきますよ。

子供は好きですから。



この国では強くなければ殆ど稼げないらしい。

強くなければいい職にはつけず、そうでない人の就く職はとても薄給。


しかしどんな職でも雇用主からの手厚い保障が義務付けられているため、職を失うことはない。

ただ、雇用主の保障分を超えたら自腹で治療費を払わなくてはならない。


保障は上級ポーションまでで、最上級ポーションが必要だからその費用とそれまでの対処療法の費用が必要、とか。

病気の薬が開発されておらず死を待つのみ、だから死ぬまで対処療法用の薬代を払い続けなければならない、とか。

色々なパターンがあるらしいけれど。


この国ではどんなにお金がなくても一度入ると治るまで治療院から出られない。

入院にかかる費用は無料だけれど、その間はもちろん無収入。


働き手がいなくなった家では死活問題になる。


だから子供たちは自分や兄弟のご飯代を稼ぐために日雇い労働に従事していたそうだ。

それは路上での靴磨きだったり、花売りだったり。



わたしが面倒を見続けることはできないけれど、滞在中の食事を融通したり服を贈ったりはしてもいいだろうか。




今日着てる服も薄汚れているんです…!!

涙ぐみながら全員の服を浄化しました。

大したことはしていないのに、「服がぴかぴか~!」「せいじょさますごーい!」なんて喜んでくれるのでつい。



「明日もここに朝食を食べにきますから、兄弟もご家族もぜひご一緒にきてくださいね」

と彼らと約束し、わたしは戻りたくない家へ戻ってきたのでした。




舞踏会行きたくない!





ご閲覧、評価、ブクマなどありがとうございます。

とても励みになります。


毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。

『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着(あい)される』

https://ncode.syosetu.com/n6804fq/

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