41.謁見
案内されたのはずらりと人の並ぶいかにも謁見の間、という場所でした。
こういうの世界史の教科書でみましたよ。
まさかそこに立つとは思ってもみませんでしたけれど。
今になってマリアさんに渡された本を読むべきだったと少し後悔します。
ああいえ、でも初級の本に王族との謁見の作法なんてないですかね。
国が違うので作法も違うかもしれませんし。
考えてもわかりませんので、わたしの手を引きながら一歩先を歩いてくれるヴェインの真似をするしかありません。
「主様は礼をする必要はありません」
と囁かれたその言葉の通り、王の下ではなく真横まで案内される。
以前シュルツの街のギルドで言われた、"聖女は王より上"というのはどうやら誇張でもなんでもなかったらしい。
「ようこそおいでくださった、聖女様。私はユミディーテ王国を治めるギオルグ・ユミディーテです。」
その証拠に様付けで呼ばれる。大国の王に。
立ち位置がよくわかりませんね。
「聖女のリンです。ええと、ギオルグ様とお呼びしたほうがよろしいのでしょうか?」
一応聞いておきましょう。
「様などお付けいただく必要はありませんよ、リン様」
穏やかに言われたし、事実『聖女様は慎ましやかであらせられる』とお考えのようなので、ここは遠慮なく「ではギオルグさんと呼ばせていただきますね」としておきます。
謙遜合戦になったら不毛ですし。
次いでずずいっと出てきた多分偉いお爺さんが目録らしきものを掲げる。
巻物状のそれがするすると広げられると、
「聖女リン様、ユミディーテ王国から滞在と浄化のお礼として幾ばくか受け取っていただきたい物がございます」
などと恭しく膝を付くとその内容を述べ始める。
なるほど、本来の聖女ってこうやって各国から支援をうけて旅をするんですね!
少し理解してきましたよ。
長々とそして回りくどい目録によると、自由に使えるお金はもちろんのこと、第一都市に住居を準備してあることやその住居を維持する使用人、王国内を移動する際の護衛、衣食の保証、さらには何処で何を購入しても料金は不要、という厚遇。
「護衛は不要です、この2人がいれば十分ですから。ですが道案内役を買って出てくださるならお任せします」
これで数を減らせる…でしょうか?もうパレードは懲り懲りなんですよ。
全く不要としてしまうと角が立つでしょうし。
まあ不要なんですけど!
事なかれ主義の弊害ですね。きっぱりお断りしたい…けどできません。
他にもお断りしたいものはありますが一番不要な護衛について述べるだけにしておきましょう。
笑顔で受け取ることも聖女らしさ…でしょうか?
「わたしからもお礼と言ってはなんですが、滞在中は怪我や病気の方をできる限り癒して差し上げたく思います」
にこりと聖女スマイルを浮かべ、一方的に施されてるわけじゃないぞアピールをしてさっさとゲオルグさんの前を去ろうとしました。
したんですよ?
「リン様、是非明日の夜開催する歓迎の舞踏会に参加なさってください」
と、王様直々のお誘いに加え、招待状らしきものをヴェインが受け取ってしまいました。
いえさすがにわたしに手渡すなら断れましたが、ヴェインは断れないですからね。
というか明日って!明日って!!!
***
まずは、と案内されたのは何人住んでも部屋が余りそうな大きなお屋敷でした。
宮殿といっても過言ではありません。
第一都市の一等地に建つここを、ユミディーテ王国滞在中は自由に使ってもいいそうです。
そこに30人ほどの使用人がいるわけです。
誰か元々住んでいた方を追い出したわけではないですよね…!?
ユミディーテ王国に入ってまだ数日なんですが、いつ準備したのでしょう。
「…わたしここには数日しか滞在しないのですが…」
流石に申し訳なくなって家令らしき初老の男性に声をかけると、
「いつでも聖女様が戻ってこられるよう整えるのが我々の仕事ですから」
ときっぱり言われてしまった。
好意の押しつけは蔑ろにできない…!
というか好意に見せかけた国のマウントでしょうか?
自分の国は"聖女様"にここまでできますよ、みたいな。他国への牽制とアピールも含まれていると思われます。
ため息くらい吐かせてください。
「ヴェイン、買い物を任せていいですか?」
「はい、承りました」
もうヴェインに任せないと旅で必要なものがわからないのです。
いつもならその間宿で読書なんかしているわけですが、この家に滞在するのは少々…いえかなり嫌です。
「ヴァイトはついてきてください。治療院を"癒し"て回ります」
ヴェインは少し眉根を寄せる。
いつもなら買い物ついでに街を回るヴェインに宣伝してもらい、最終日に教会で来た人全員を癒して終わりだったわけです。
自力で来られない人は抱えて来てもらいました。
つまり一度の"癒し"で効率よく治してしまっていたわけです。
もちろん今すぐにでも、死にそう!みたいな場合は駆けつけましたよ。それくらいします。
ですがこの街ではこの家の滞在時間を減らすための苦肉の策です。
客ならまだしもこの家の主なんてお断りしたいのですよ。
ヴェインもその意図を理解してくれたようで、頷いてみせてくれた。
「では行きましょうか、ヴァイト」
「聖女様、案内役をお連れください」
ヴァイトだけ連れて行こうとしてみたものの耳聡く聞きつけて、騎士を2名つけられてしまった。
2名で済んでよかったとすべきですね。
ヴァイトがあからさまに「邪魔」という目で見ています。
「ではお願いします。遅ければ置いて行ってしまいますからね」
うふふ、と意図してかわいく微笑み、わたしはヴァイトに目配せ。
足と腕だけを獣化した状態で、横抱きにしてもらいます。
ええ、ヴァイトにはしっかり伝わっているでしょう。
もちろんオーダーは、「引き離せ」です。
わたしの期待通り、ヴァイトは騎士たちを置き去りにしてくれたのでした。
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『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着される』
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