40.第一都市
それから2日後、すっかり澱みは解消されたので次の街を目指します。
滞在していたのは第二の都市だったそうで、次に行くのは第一の都市。
つまりユミディーテ王国の首都にあたる場所らしいのです。
この国では街に名前はないらしく、第二都市、第一都市と呼ばれているようです。
中央に位置する第一都市を囲むように、第二~第五都市が配置されていて、それぞれ国境を護っているそうです。
ヴァイトが移動中に説明してくれたので頭に入れておきます。
第五都市と魔族領が隣接しているようなので、第一都市のあとはそちらを目指すことが決まりました。
ユミディーテ王国は完全に内陸に位置しているので周りはすべて国境なんですね。
第三都市がヘンドラー公国との境ですからそこは最後になるでしょう。
事と場合によっては踏み入れることもないかもしれません。
どこかで聖女はヘンドラー公国にはいかないかもしれませんよと宣言できればよいのですが。
「あ、そういえば」
ふと随分前に放置してしまっていた"ステータス"について思い出しました。
「ヴェイン、ステータスってどうやって見るんですか?」
「主様、ステータスはなにかしらの魔法的契約を行わなければ見ることができないですよ」
どうやらわたしの思っているゲーム画面のようなステータスとは違って、契約内容を表示するための魔法のようです。
ということは"主従の契約"についての詳細が見れるのでは?
むしろ見たいのですけど。
「残念だけど無理だよ。"主従の契約"は精霊を通さない特別な契約だから」
『本当に残念だな、契約の内容をみれば主様もきっと驚くのに』
とのことなので本当らしい。
それ以上に聞き捨てならない思考がありましたけど。都合の悪いことは無視です。
「"主従の契約"の内容はどうしたら見れるんですか?」
「うーん、主様って獣人の文字読める?」
取り出した紙さらさらと書いてくれたのは見たことのない文字。
この指輪の翻訳機能が働かない文字ということになるようです。
「読めませんね」
「じゃあ無理だね。」
「この指輪みたいに翻訳機能のついた魔道具はないんですか?」
「地道に勉強するしかありませんよ。精霊にも読めないのが我々の文字ですから」
精霊に読めないということは魔法でどうこうできないということですか。
む、と口を結びます。
「まあまあ主様、ちゃんと僕たちが教えるから拗ねないでよ、ね?」
拗ねたのではなくあなたたちに説明する気がないことに少々腹が立っただけです。
いえあなたたちの説明を信用できないのですけど。
***
都市と都市を繋ぐ道には宿がなく、一泊キャンプして第一都市です。
第二都市よりも賑やかな街に少し怖気づく。
あそこも相当にぎやかでしたけど。
二~五都市の規模は同じくらいらしいので小さい村のようなものはこの国にはないらしい。
田舎出身が存在しないんですね。
不思議な国造りです。
「聖女様だ!」
「聖女様よ!」
入った瞬間口々に称える声なんかが聞こえてしまい、わりと居心地が悪いです。
にこやかに手を振るのにも疲れます。
「お待ちしておりました、聖女様。宮殿にご案内させていただいてもよろしいでしょうか」
全くよろしくないんですけど、
『聖女様がようやくいらっしゃった!』と喜色満面の内心を視てしまい、つい頷いてしまいました。
わたしの偽善者。ばか。面倒ごとのにおいしかしませんよ。
いつ知ったのか不明ですがヴァイトまで、『心の中を読めるのにそれを生かせないなんてかわいらしい』
ってわたしが視てるのわかって考えてますね、じとっと睨んでも笑顔しか返ってきませんでしたけど。
迎えに来てくれた騎士が教えてくれたのだけど、ユミディーテ王国では王だけが血筋で決まるらしい。
それは、国を纏めるには強さだけが必要なわけではないから、という至極もっともな理由でした。
ただの脳筋と思いきや、大国なだけあって一応ちゃんとしてたんですね。
他は全員脳筋かもしれませんけど。
確かに王まで強さで決めるならそれは王国とは呼ばないですね。
で、今までの王も現在の王も大変良い王だそうで、聖女であるわたしが困っていないか気を揉んでいたそうです。
放っておいてくれていいのですけど。
まあフロレンティア王国での扱いは他国にも伝わっているそうなので仕方がないですが。
ヴェインに乗るわたしに並走する騎士のほかに、先行する騎士が10名ほどいる。さらに後ろを護る騎士が5名ほど。
小さなパレードみたいになってしまっていて仕方なく街行く人々に笑顔を振りまく。
騎士と反対側を並走するヴァイトも心なしかうんざりしているようだ。
というかヴァイトってこの国では有名人ではないのでしょうか。
地下の賭場で100戦目の相手を固定でやっていたのです、顔を知られていてもおかしくないような気がします。
今は狼ですけど。
あ、でも知られていたところで何かあるわけではないですね。
むしろそれだけ強い護衛がついていると見做されるだけでしょうか。
恥ずかしい二つ名とかついてないかな、銀の弾丸とかなんかそういう。
あれば笑って差し上げるのに。
何か一つくらい弱みでも握りたいです。
手を振りながら眺める街並みは、石畳の床と同じく石でできた建物が並ぶ。
第二都市と同じような作りで、水路が多く水で溢れている。
鮮やかな青のタイルで飾られた建物が多く、見ていてとても楽しいです。
人が通る道も影になるようにアーケードになっているので涼しそう。
わたしが通るここは直射日光に晒される車道にあたる場所ですけど。
ヴェールがなければ熱中症間違いなしでしたね、これ。
街の中央部分には噴水の広場のような場所か泉があり、そこから同心円状に水路が張り巡らされているのでしょう。
第二都市と同じなら。
草木も多く植えられているからか、空気はとても清々しいです。
やがて遠目にも巨大とわかる白の王宮が見えてきました。
深い堀で囲われているので入るには跳ね橋を渡る必要があるそうです。
それが下りるのを待つ間、隣の騎士が話をしてくれる。
ここまで来ると民たちからは離れるので、ようやく笑顔で手を振り続ける苦行から解放されました。
頬が痛いです。
「ユミディーテ王国はフロレンティア王国と異なり、女神様や精霊様のご加護がありません」
そういう場所は、一度荒れると元に戻すのがより大変なのだという。
だから土地を穢し森を破壊する魔物が少ないうちに"澱み"を浄化してほしい。
その浄化する力を持つ聖女にはフロレンティア王国以上に感謝している。
「たったお一人の我々の希望なのです」
ちらりとヴェールを除けて見せてくれた笑顔は、心底嬉しそうで、"聖女"がいかに大切かを思い知ったのだった。
わたしはまだ魔物に出会っていない。
ヴェインの案内が良かったからだと思うのですが。
確実に、見えていないところで魔物はこの世界を蝕んでいるのだと、知ってしまった。
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『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着される』
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