表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/59

幕間1.ルーリアの街の人々1

次の国に入る前に3話ほど幕間を入れます。ラウラ(ルーリアの街の修道女)視点です。

聖女様の手を恐れ多くも引きながら街の外へお連れしたことが昨日のように思い出されます。

聖女様は心根までお美しく、私たちはすっかりあの方のことを好きになってしまったのです。



小さなことで花がほころぶように微笑まれる慎ましやかな笑顔。

勤勉で次々と本を読破される凛とした横顔。

惜しみなく癒しを授ける慈愛に満ちたお顔。


すべてが鮮明に思い出されます。


あの日あわただしく教会を出立したにもかかわらず、部屋にはささやかですがという走り書きのメモと数枚の金貨。

きっと価値はおわかりでなかったのでしょうけれど、聖女様が滞在されていた時の食費なんかよりもずっとずっとたくさんのお金でした。

いつかお返ししましょうと大切にとってあります。




あれからもう半年ほど経ちました。

お元気でしょうか、と女神様にお祈りを捧げていたその時、目の前に青のワンピースをお召しになった聖女様が現れたのです。

お姿を拝見したことはありませんが、ルーリア様はきっとこのように神々しいお姿なんでしょう、と思わず考えてしまうほど神聖に見えました。


「お久しぶりです、ラウラさん」

私の名前まで呼んでくださって。

「実はやっとみなさんにお礼ができる目途が立ちまして」

恥ずかしそうに微笑んでいらっしゃいますが、そもそもお礼など必要ないのですが。



しかし御隣の美しい獣人の男性はどなたでしょうか、聖女様の護衛ですか?

結局この国から差し出された者を選ばれなかったことはすでに国中に広まっていますが、それは当然でしょう。

今思い出しても腹が立ちます。



聖女様のことを、「あの女」などと(なじ)っていたのです。

その時点で聖女様をお任せすることはできませんでした。



あの日は街中が一丸となって聖女様をお守りした思い出の日でもあります。



第一王子が全ての諸悪の根源と報じられておりますが…聖女様がご無事ならばこの街の者は何でもよいのです。




「お久しぶりです、リンさん」

きっとこうお呼びしたほうが喜ばれるのでしょう、嬉しそうに笑顔を返してくださいます。


「あの、これをこの教会で活用していただけませんか?」

差し出されたのは随分と大きな宝石のついたネックレスでした。

「こ、これは…!?」

「宝石に聖女の力を移せると聞いたので…"癒し"を10回分込めたものです。それを10個ほど持ってきたのですが」



まさかあの時と同じ言葉を再び口にするとは思いませんでした。

「…やりすぎでございます」

眉を下げて首を横に振ります。これは受け取れません。

一回分の"癒し"であっても貴族の家にしかないような代物ですよ。

相変わらず少しスケールのずれた方です。



「その…わたしのためにも置いてもらえませんか?」

「リンさんのため…ですか?」

「はい。よくしてくださったこの街のみなさんはお元気だろうかと気にしてしまうわたしのために」

ゆったりと微笑まれる聖女様は、かわらず聖女様でした。



「うっ…!お美しい…!」

思わず漏れてしまった感嘆の声があちらこちらから上がります。

祈りを捧げていた修道女たちがしっかり聞き耳を立てていたようです。


「そ、そんなに良いものではないのですよ、たった10回ですし!」

などと慌てていらっしゃいますが、この方はいったいどれだけ素晴らしいことをしてくださっているのかお気づきでないのでしょうね。



そういうところも聖女様なのでしょう。



「ヴェイン、こ、こんなつもりでは」

斜め後ろを振り返り、獣人の男性を困った顔で見上げていらっしゃいます。



ンンン…これはお可愛らしい…!

いまこの場にいる修道女一同の心の声が揃った気がいたしました。


胸元をぐっと握りしめて崩れ落ちる修道女もいます。

気持ちはよくわかりますが、聖女様の視界にはいらないようになさい!



聖女様はあちらの世界の方としては平均的らしい155cmほどの身長ですが、われわれからすると10歳児程度の身長です。

お顔立ちも幼くいらっしゃるのでまるで童女のよう。

御髪も瞳もこの世界では見かけない黒曜石のような美しさ。

肌はきめ細かく白く、小さな御口がさらに庇護欲をそそります。

極めつけはその小さな手足。


本当に成人していらっしゃるのですか?と度々聞きそうになりました。


そんなお美しくもかわいらしい聖女様が、ゆうに50cmは背が離れているであろう獣人の男性を見上げているのです。

このお姿を見てなんとも思わない人はいません、ええ、いませんとも。




私たちの異様な熱気に怖気づいてしまわれたのか、目を潤ませながらベネディクト司祭に箱を手渡していらっしゃいました。

申し訳ないことをしてしまいましたね、どうかまた遊びにいらしてほしいのですが。




他にも訪ねる先がおありのようで、子供たちに挨拶するとすぐに行ってしまわれたのでした。

お金をお返ししそびれました。




「はあ…聖女様お可愛らしかった…」

思わずつぶやけば、

「ほんとうに…あのお綺麗な獣人の方とお似合いでしたね…」

と返事が。

「ヴェインさんと仰るそうよ、聖女様がお呼びしていたのが聞こえたの」

「素敵なお二人でしたよね、きっと女神様もお喜びです」

「そうね、女神様もきっとあのお方であればお喜びになるわ」



などと次々と同意の声が上がっているので、私共ルーリアの街の教会は聖女様とヴェインさんを応援いたします。

結婚式はこの教会で挙げてくださらないかしら。



そうすれば街を挙げてお祝いするのに。








ご閲覧、評価、ブクマなどありがとうございます。

とても励みになります。


毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。

『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着(あい)される』

https://ncode.syosetu.com/n6804fq/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ