34.宝石
買い漁った宝石に聖女の力とやらを籠めてみようと思います。
まずは解り易く"癒し"ですね。
手頃なブレスレットに、"癒し"を10回分!
と念じてみます。
「うーん?うまくいったのかわかりませんね。」
「見せてください」
ヴェインに見せると、「10回分の癒し、ですか。また規格外な」と呟かれた。
今更ですけどヴェインってもしかするとすごいですか?
わたしには見てもどういう効果が付与されているかなんてわからないんですけど。
「あれ、多いですか?」
「普通は一つにつき一回分ですね。この宝石の質がいいので出来ましたが、普通壊れますよ」
ハクにもらったやつはとても質が良く、それでも3回分、だそうです。
少々呆れているようにも聞こえます。
でも先に言ってください。
高い宝石を粉砕するところだったじゃないですか。
「"転移"もまず1回分だけ籠めてください」
ヴェインもわたしの適当さに気づいたのか手伝ってくれるらしい。
言われた通り1回分の"転移"を籠める。
首輪を外せるくらいの近い距離のものにしました。
「これくらいであれば数千回分は行けそうですけど…距離によって変わりそうですね」
「ははあ、ここから王都までとかにすると1回分だけ、とかそういう感じでしょうか」
「でしょうね。」
「まあ首輪が外せればいいです」
適当に5000回に設定したアクセサリを大量に生成します。
これはもちろん"奴隷廃棄場"に置く分です。
少々微妙な顔をしていますね、わかりました。
「盗まれたりしますか?」
どうです?高価な宝石というだけでも価値があるのにさらに聖女の力が付与してあるんですからそういうこともあるでしょう!
「しますね」
当たったようで何よりです。
ヴェインは切羽詰まった時でないと提案とかもしてくれないのですよね。
わたしの意思を尊重してくれているのかと思いますが。
「俺がなんとかしておきますよ。」
わたしに任せては大変なことになると察してくれて何よりです。
面倒ですし一定距離動かすと爆発する契約魔法でもつけてやろうかと思っていました。
「ではお任せします。」
あとは"癒し"も大量に生成。
これはお礼用です。最初にわたしを匿ってくれた教会の方たちや、その後お世話になった方々へ。
「うん、これでいいでしょう。ヴェインにもあげます。これはわたしの場所に転移するもの、こっちは癒し」
二つの指輪をヴェインに嵌めてあげます。
「え?」
ふふ、そのきょとんとした顔は少しかわいいです。
そんな顔珍しいですね。
けれどウルさんが部屋にきたあの時のように焦れるのは嫌なんです。
これは言わないでおきますけど。
「ヴェインはわたしとあまり離れたくないのでしょう?これがあれば隣にいるとのほぼ同義です。ヴェインが怪我をするのも嫌ですし。」
随分強いようで赤騎士団の方とやりあっているときも無傷でしたけど、念のためです。
ヴェインが負けたり怪我をしたところはまだ見たことがないですが、今後はわかりませんからね。
「あ、ありがとうございます!!」
尻尾をぶんぶんしている幻覚まで見えてきました。
こういうところは可愛いですねえ。
うっかり撫でまわしたくなりますが我慢しておきます。
普段はわたしのことをしれっと騙す油断のならない狼野郎ですから。
「しかしすごい量ですね、これ一つでかなり価値がありますが…本当に配るんですか?」
非常識な、みたいな目で見てくるけど無駄ですよ。
「配りますよ?何のために作ったと思ってるんですか。だいたい燃料はこの世界の"澱み"なんですから気にすることはないですよ」
わたしはお金もだしてないので掛かったのは技術料くらいのものです。
それだって女神様がこの世界の魔力を集めて授けて下さった力ですからつまりこの世界のものです。
実質タダですよ。
と説明してあげたのですが納得はしていないようです。
ヴェインが納得していなくてもやるので諦めてくださいね。
「そういえばさっき随分悩んでいたようですが解決しましたか?」
「主様に質問させていただいても?」
いえいつもぐいぐい来るじゃないですか、時折思い出したように主従を保とうとするのもうわかってますからね。そこの切り替えに関してはよくわかっていませんけれど。
「俺が読んだ書物にはこうありました。
『聖女様の暮らす世界の水準は低く、魔法はない』と。ですから今までの方々は、この世界の甘味などを差し上げると大層お喜びになったそうです」
前回の聖女が何年生まれの女性かはわからないけれど、100年離れていればもうかなり常識が変わっている。
「わたしの世界…とりわけわたしの国はここ数十年で目覚ましい進歩を遂げました。同じ時間の流れではなさそうですが…魔法は確かにないですが化学は発達しています。移動の手段ひとつとってもわたしの国のほうが早いですね。」
娯楽の量も全然違うんですよね。
音楽はどうやらそれなりに盛んなようだけれど、まだ生で聞くことが主流だ。
であればわたしが好むような音楽は向こう数百年生まれないだろう。
「となると主様を喜ばせることは不可能…!?」
そんなに思い悩むほどのことだったんですね。
「そこですか…いえヴェインの手料理はとてもおいしいですし、十分に喜んでいますよ」
これは本当。まさか旅の間こんなにおいしい食事ができるとは思っていませんでしたから。
「ではいまはそれだけで我慢します…主様の欲するものはすべて俺が準備したいのです」
「期待していますよ、ヴェイン」
適当な返事を返し、わたしはみなさんへ宝石を配って回ることにしたのです。
あまりまともに取り合うとこちらがダメージを受けるのですからね!
ガレスの街の"奴隷廃棄場"にもリュカさんにお願いして置かせてもらうことにしました。
これで少しはわたしの罪悪感とかそういう気持ちが楽になるでしょう。
ずっと心に澱となっている違法な奴隷の売買に関してはまだ大本とは出会えていませんけれど。
解決するのがわたしの仕事ではないですが、いずれなんとかしてやりましょう。
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『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着される』
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