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31.ガレス

「はじめまして、スズ・クジョウです」

イギリスのお城のような厳格で荘厳な佇まいのそこに住まうのは、美しい真紅の髪をかき上げる美丈夫でした。

例にもれずやはり大変にお美しく、褐色の肌と真紅の髪のコントラストが目をひきます。

騎士のような鎧を身に纏っているので、武神(精霊だけれど)といった風貌。

少し温度の低い橙の炎のような瞳はわたしをきらきらと見つめていて、思わず心臓が跳ねる。


精霊というだけあって、ヴェインの美しさとはまた違う次元なのですよね。


「待ってたぞ。ガレス・ルーフスだ。まあ座れ、そっちのもな。俺様と同じ狼だ、悪い気はしねえしな」

ヴェインのことも豪快に迎えてくれて、ついでにガレスさんが狼だということを教えてくれた。



「ガレスさん、さっそくで申し訳ないんですけれど…」

「ああ、お前の力だな、俺様に任せておけ。浄化の力に異常はないから気にすることはないぞ」

くしゃりとわたしの頭を掻き回す手にほっとした。

さすがにその力は残っているのですね、それならば安心です。


「何が原因かわかりますか?」

「ああ、人間の作る道具だな。悪いがそれ以上はわからん」

忌々しそうに吐くのでお怒りではあるようです。

女神様から賜ったお力ですし当然ですね。

「いとし子の邪魔立てする奴をのさばらせておくわけにはいかねえからな」

にかっと頼りがいのある笑顔を最後に、美しい赤の狼はどこかへ行ってしまった。



「ヴェイン、ここは安全ですしゆっくりさせてもらいましょう。疲れました」

「そうですね、ではどうぞ」

狼の姿になり、床に丸まって寝床を提供してくれている。

その魅惑のもふもふ力には抗えず、わたしはそのまま眠りについた。


なんだか当たり前になっていますけどベッド扱いっておかしいよう…な…





***





なんだか寝苦しいな、とゆっくり意識が浮上する。

「…ああ、ガレスさんですか」

ヴェインは体温が低めなので密着して丁度いいくらいだが、ガレスさんは随分温かいらしくお腹に触れている部分が温かいを通り越して熱い。


そして暑い。汗をかいた。


「起きたか。風呂に行くぞ」

さっさとわたしの服を軽く咥えて進んでしまう。

「わ、あ、まってください」

思わずよろけると、いつの間にか起き上がっていたヴェインが支えてくれた。

「すみません、ヴェイン」

「いいえ。湯あみですね、服を準備しておきます」


ほんの疑問なんですけれど、さっきまで狼の姿でつまり全裸?だったヴェインが、今は全身しっかり服を着ているのですが、どういう仕組みなんでしょうね?

魔法かな。



連れられたお風呂はやっぱり広くて素敵でした。

精霊の方々がお好きなのか、風呂好きの日本人を迎えるためにこうなったのか、どちらでしょうね。


「あ、あの、一緒にはいるんですか?」

脱衣所まで入ってきたガレスさんに問いかけると、何か問題が?みたいに首を傾げられる。

「人の形をしてなくてもガレスさんは男性のようなので恥ずかしいのですが」

「なんだ、そういうことか。しかし用があるから我慢してくれ」


要望を聞き入れてもらえませんでしたね!?

え、なんでかな!!


軽いパニックになると、「そこの服を着てくればいい。」と服を差し出された。

薄手のワンピースのようだ。

昔の水着みたいな扱いかな…



人の形を取らないでいてくれているだけよしとしますか。

抵抗しても無駄と判断し、さっさと諦めます。



温かいお湯につかるとほっとしますね。

ガレスさんは温まったわたしの腕や足を念入りに眺めています。

恥ずかしいんですけれど…


「ああ、見つけた。」

呟くと、ぺろりと首の後ろ辺りを舐められました。

「ひあ!?えっなんです!?」


突然のことに盛大に体を揺らして振り返ると、

「ん」

ガレスさんが差し出す舌の上には小さな石のようなものが乗っていました。


「もしかしてこれが原因、ですか?」

「そのようだな。」

がり、と噛んでしまうとそれは粉々になって、更にガレスさんの口の中で燃えてしまったようでした。

「どうだ?」

と聞かれたので、リュカさんを思い浮かべてみる。


この建物の外でお茶している姿が見えたので、ばっちり千里眼が使える。

数歩先への転移もできた。

都合よくついていた擦り傷も治す。


「はい、問題なさそうですね」

やはりどの力も無いともう不便で仕方がなかったですから。

ヴェインに頼りきりになるのは申し訳なかったので安心です。


「そうか、よかった。では我からは右の小指をやろう」

「え?」

言葉と同時に右の小指の爪が真紅になっていたので、また勝手にやられたようです。

精霊の方々ってちょっと…いえかなり勝手なんですよね!!

ありがたいのですけど!

見た目はわたしの指のままでよかったです。


「これで安定して魔法が使えるはずだ。」

どうやらキーエンさんの小指で巡りがよくなりすぎて結果的に増えていた魔力を扱い使いやすくしてくれた…のだと思います。

あとでヴェインにも聞いてみましょう。

「あ、ありがとうございます!」

「よい。では契約も」


不意に人の姿になり、額に口付たかと思うとその場からいなくなった。




契約は人の形でないといけないのかもしれませんね、ええ。




…裸ではありませんでしたしよしとしましょう。

取り乱しかけたのを一生懸命宥め、長く息を吐いた。

外から「ゆっくりしてこい」と聞こえたので、お言葉に甘えて服を脱いでお風呂を満喫しましょう。



ところでお風呂じゃなきゃいけなかったんでしょうか?

謎です。




***



「ああ、おそらく主様の魔力の流れを確認されていたのですよ」

ヴェインに聞けば、体が火照ると流れが浮かんで見えるらしい。

わたしには見えませんでしたけど。

ルーリアさんの目の方を使えば見えたのかもしれませんね。


それで小指を交換してくれたのですね。

ランプレヒトの付けた石を見つけたのは偶然だったのかそれも目的だったのか。


「精霊様の御力で主様も安定して魔法が使えるようになっていますよ。」

火力をうまいこと調節できるようになっているらしい。

「あとで軽く使ってみましょうか、惨事にならないならば魔法も練習したいですし」



ともあれ転移が使えるようになりましたから、ガレスの森(ここ)の浄化が終わったら一度ハクに話を聞きましょう。

胸倉だって掴んでやりますよ。



…人が居なければ。






ご閲覧、評価、ブクマなどありがとうございます。

とても励みになります。


毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。

『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着(あい)される』

https://ncode.syosetu.com/n6804fq/

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