3.プリンセス的な
しばらく馬に任せて森を駆ける。
いやもう必死だったので手綱にしがみ付くしかありませんでした。
街とか村とかそういうところに着いたら嬉しいです。
徐々に速度が落ちてきたので、きっとこの馬の限界が近いのでしょう。
よく頑張ってくださいました。
「疲れましたね。ありがとうございます。どこかで休みましょう、お水が飲めるところがいいのですが」
と提案してみると(わたしも漸く口を開けた)、ゆるゆると速度を落とし、道を逸れてゆく。
まだ明るいので随分美しい森に見えるけれど、これが夜になったら少し怖いかもしれませんね。
千里眼でさっきの兵士の顔を思い浮かべると、
どうやら彼らは追っては来ているものの焦っているようであまり脅威には感じません、今のところ。
この馬が優秀だったようで、まったく追いつきそうではありません。
まあ向こうは仰々しい馬車もあるし仕方ないですが。
追っ手のことはあまり気にしなくてもよさそうです。
視界を戻すと、小さな鳥やリスたちが少し離れた場所にいますね、かわいい。
「あの、この先に水が飲める場所があるなら案内してもらえませんか?」
馬がいけたしいけるかも、と声を掛けてみると、数羽の鳥が肩や馬の頭に止まり、リスが馬を先導しはじめました。
「うんこれってあの、一文字も口にだすのが恐ろしいですがいわゆるプリンセスみたいな…」
もしくはあのヒロインのような。
動物さんとはみ~んなお友達よ!みたいな力でしょうか?
聖女のデフォルト能力なんですかね?
そもそも聖女って結局なんなのかよくわかりませんね、教えてもらえませんでしたし。
やがて湧き水が出る場所へ案内され、わたしは馬から降ろしてもらった。
「たくさん走ってくれてありがとう、今日はここで休みましょう」
この鞍は外した方がいいのかな、と少し思案したが、外し方がわからなかったので一先ずそのままにしておきましょう。
あとはこの指環にGPS機能がついていないことを願うのみ。
気付けばあたりには大型のいわゆる猛獣さんが居るのだけれど、優し気な目をしているので怖くありませんね。
ベッドかソファを申し出てくれているらしく、それに甘えてかれらのふかふかの毛皮に顔を埋める。
「うわあもふもふ…」
少々獣くさいですがこのもふもふには抗えませんね!!
今度はきつねやらうさぎやらの中型動物が林檎や葡萄を運んでくる。
有り難くいただき(何せ久しぶりのパン以外の食べ物なので)、馬が食べていることも確認し、眠りについた。
「人がきたら起こしてください」
と告げることも忘れずに。
***
心地よくぐっすりと眠り、翌朝軽く額をつつかれて目が覚めた。
鳥さん起こしてくれてありがとう、とそっとなでなで。
ああかわいいです。
あの馬車での睡眠はなんだかんだで気を張っていたのか、それとも毎日微睡んでいたせいか、あまり質の良いものではなかったようですね。
久しぶりにぐっすり眠れたという感覚があります。
吸い込む空気も少しひんやりとしているものの気持ちがいいものです。
毎日閉じ込められていましたし、風を感じるのも久しぶりですものね。
ここはおもいっきりすーはーしておきましょう。
「どなたかここから一番近い街とか村とか人間の集落の場所をしりませんか?」
存分にすーはーしたあと、集まる動物さんたちに尋ねてみます。
どうやらキツネくんがそれを知っているらしく、座るわたしの膝をたしたしと叩きアピールしてくる。
かわいいですねえ。ほっこり。
「じゃあ連れて行ってもらえますか?」
と聞けば、ぴょんとその場で跳ね、少し進んだところでこちらを振り返る。
どうやら先導してくれるようだ。
「馬くんはしばらくゆっくり一緒に行きましょうか、お疲れでしょうし」
馬を引いて一緒に歩こうと手綱をつかむと、ふるふると首を横に振られてしまう。
「え?もしかしてここに居たいですか?」
それは少し困る。わたしの足だけでたどり着ける距離ならいいのですが…
すると再度首を横に振られ、少し屈んでくれる。
「乗っていいのですか?大丈夫?つかれていません?」
ぶるっ!と小さく嘶き、大丈夫だといいたげな眼を向けられる。
であれば、その言葉…いえ態度?には甘えることにしましょう。
「ではお願いします。みなさん、ありがとう。」
ばいばいと手を振れば、尻尾を振ったり飛び跳ねたりして見送ってくれたのでした。
かわいい。
もふもふたちに好かれるなんてすばらしい経験をしてしまいました。
きつねくんは比較的ゆっくり歩いてくれるので、わたしも優雅な乗馬を楽しんでいる気分です。
実際は逃亡者?ですけど。
確認のために再び護衛たちを視ると、ばらけたようで人数が減っている。
けれどこちらに来ている様子はありませんね。
馬くんのルート選びとキツネくんの案内がいいのでしょうか?
鳥さんたちは着いてきているようなので、「馬にのった兵士を見かけたらおしえてくださいね」とお願いしてあります。
かれらは人の言葉を話さないけれど、とてもお利口ですね。
「うーん、馬くんはきっとお城に返したほうがいいですよね?飼い主さんがいますものね」
と聞けば、少し悲しそうに目を伏せた。
「きっと心配しています、次の街についたらお城へ帰しますし、それまでよろしくお願いします」
ひひん、と嬉しそうに嘶くので多分あっているのでしょう。
懐いてくれているようだけど、酷使したいわけじゃないですし。