28.疑問
「さてヴェイン、少しお話ししたいのですけれど」
わたしは先送りにしまくっていたことに漸くケリをつけることにしたのでした。
少し心の余裕ができたことが大きいです。
「ヴェインあなたわたしに隠し事をしていますね?」
「はい」
嘘はつけないけれど、隠し事ができないわけではないんですよこの主従の契約っていうやつ!
いえやっと気づいたんですけどね?
的確に指示をして吐かせることはできるんですけど、ぼんやりした指示だとやっぱり躱されてしまいますし。
例えば隠し事を全部教えなさい!って言っても何が全部かはわたしにはわかりませんからね。
「どうしても話したくないことですか?」
わたしも別に無理やり聞こうとかは思っていません、ヴェインの気持ちも尊重したいですから。
「…そうですね、まだお話したくありません」
「ではあなたについて、は聞きません。けれど、あなたの本心を隠していることについては話してくれますか?」
ここは想定していた通りなのですぐに引きます。
本当の狙いはこっちだからです。
「本心、ですか?」
きょと、と目を瞬かせるのだけれど、あれ、隠してますよね!?
「ええと…ヴェインには話しますが、わたしは"癒し"と"転移"に加えて"千里眼"の力を持っています」
「ああ、なるほど。たまに顔を赤くされるのはそれででしたか」
ぐっバレてたようですがここは平常心ですよ…!
にこっとした笑顔が腹立たしいですが!ここは平常心、ポーカーフェイス。
「ヴェインのことも何度か視ましたが、あなたは、その…変なことを考えてばかりで…それは隠しているのではないのですか?」
わたしへの賞賛ばっかりなので恥ずかしくて少しにごしましたけれどわかりますよね?
伝わりますよね?
「いいえ、まぎれもなく本心ですよ」
すっぱりと切られてしまい、仕方がなく心を覗けば案の定
『こんなに愛でているのに伝わらないのであればもっと頑張らなければ。はあ可愛い我が主様』
だったのでぶん殴りたくなりました。
「…あえて関係のないことを考えて、心中を読ませないようにしていますよね?」
仕方がないので考えを話してしまいます。こうやってきちんと聞くと、嘘はつけなくなるはずです。
そうなる前に言ってほしいんですよこちらは!
「そうですね、あ、いえ主様のことが可愛くて仕方がないという気持ちは本当ですよ」
「そこはいいです!!」
明け透けに告げられて頬が上気したのがわかりますが、"わざと"というところが分かれば今はよしとしましょう。
これ以上はわたしの精神がもちませんから。
「あ、最後にひとつだけ。どうしてわたしだったんですか?」
ついでに聞いてしまいましょう。
あの時、どのタイミングでヴェインがわたしに決めたのか全くわからなかった。
気付けばヴィーとヴェインに嵌められていたのですから。
「この感覚はおそらく人間である主様には伝わらないのですが、匂いというか血というか…運命ってやつですよ」
「はあ…?」
想像していた回答ではなく思わず間抜けな相槌を漏らしてしまう。
打算や計算があったわけでは、ない…?ということでしょうか。
「これは俺の説明より書籍を読んだ方がいいでしょうね。どこかで探してきます」
ヴェインもすっかりわたしの疑り深さを把握してくれているようで、口頭での説明は信用しないのがわかっているようです。
とくにヴェインの説明は視えないので余計。
「ではお願いします」
これで一旦お終いです。
傷の方が大きかった気がしますがヴェイン相手なので仕方がないでしょう。
先延ばしにはされましたがこの様子だといつか話してくれる気はある…のだと思います、多分。
まず彼は多分ただの奴隷ではなかったと思います。
所作が美しすぎるので。各地で見てきた貴族たちよりももっと美しいのです。
最初に名乗ってくれたシュヴァリエという姓も仰々しすぎます。
庶民の姓ではないでしょう。
何より稀少だという銀狼であるならば、どこかの国の貴族だった可能性も十分にありえるでしょう。
ヴィーと本当の兄妹だったのかも今では少し怪しいですね。
この世界の他の国については全くと言っていいほど知らないので、あくまで予想ですけれど。
そんな彼が、わたしについてくるのだから何か目的があるのかもと勘繰るのは仕方がないと思うのですよ。
ほぼ解決しませんでしたけど。
千里眼の弱点も露呈してしまいましたけど。
ヴェインはおそらく一番大事なことは胸の奥底へ仕舞っているのです。
そういう癖なのか、習性なのか。
わたしが千里眼で覗けるのは、胸の一番上にある、言葉になる寸前のものなのでしょう。
頼りになる力ではありますが、こうして隠されると見えないことを知ってしまいました。
でも考えてみれば当たり前ですよね、全部視えてしまっては情報量が多すぎますし。
主従の契約について未だに詳しいことはわかっていませんし、ヴェインのことを信頼していますが、信じすぎるのは怖いと思ってしまうのは仕方がないと思うのです。
この世界でわたしは一人きりなのですから。
つまり、これ以上ヴェインのような存在を作ってなるものかと固く決意したのでした。
キーエンの街で、わたしは彼を置いて逃げられなかった時点で、もうすっかり絆されているのです。
もう少し目を背けていていいですか?
ちょっと自分が信じられません。
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完結済みです。
『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着される』
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