20.追手
しばらくは小さ目の村や町になるようなので、さくさくっと通り過ぎたいところです。
森にはいれば野生の動物さんたちが手助けしてくれて、足にもなってくれるので今のところ一切不安のない旅を続けています。
シュルツの街を出てから5つほど小さな澱みを綺麗にし。
次の街はどうやら緑の精霊を総べる上級精霊の街らしい。
そうなると大きな街があって、傍にその精霊の住処があるんでしょうね。
聞くところによるとロゼの街、ロゼの森があるようなので精霊さんのお名前は間違いなくロゼさんでしょうね。
女性でしょうか。
と、追っ手があまりに来ないので最近気は確かに緩んでいました。
緑の精霊だから、と緑色のワンピースを着て大きな街の門に入ることを告げると。
けたたましい警報の音と共に、何故か騎士らしき人に拘束されていたのでした。
後ろ手に何か魔力を封じるようなもので縛られたようです。
小さく魔法を使ってみたのが発動しませんね。
「無駄だ、大人しくしていろ。あの方が間もなくおいでだ」
それまで入ってろなんて門に備わっていた牢屋へ入れられました。
扱いが酷いので、城の人たちでしょう。
本当誰が何を吹き込んでこういう認識になっているんでしょうね?
他の方々と態度が違いすぎて戸惑います。
しかしこうなると大きな街へは入りづらいですね。
大きな街には"奴隷の廃棄場"があるようなので寄っていきたいのですけれど。
乱暴に牢へ投げられた際に擦り剥いた体をこっそり癒しておきましょう。
聖女の力は使えるのでいざとなればどこかの森かルーリア様の住処近くまで飛んでしまいましょう。
そう決めたのでしばらくはこの茶番に付き合って差し上げようじゃないですか。
ぼんやりと小一時間ほど過ごした頃、漸く"あの方"とやらが来たのでした。
「お久しぶりですね、聖女様」
もう顔はぼんやりとしか思い出せませんでしたけれど、ランなんとかです。
空色の髪は覚えていました。
まあそうだろうとは思ってましたけどね。
「このような場所ですみませんね」
なんて全然思ってないですよね。
笑顔のように見えますけれど目は笑っていませんし。
「さて、どうして逃げたのかまず聞いておきましょうか」
おかしなこと言いますね、この方。
「逆に逃げないほうがおかしいですよね」
「おや、待遇に不満がおありでしたか?」
片眉をぴくりと震わせたのがわかる。
え、客人を迎える形ではなかったですよね?
少し話が噛み合っていないような気がして首を傾げる。
ついでに久しぶりの千里眼で覗いておきますか。
『破格の対応だったはずですが…』
一日パン一つのことはもしやご存知ない…?
さすがにそれを破格の対応とは呼びませんよね!?
「ええと、馬車に詰め込まれた日から一日も外へ出してもらえませんでしたし、食事は毎日パンが一つだけでした。食糧難なのかと思えば今までのどんな小さな町でも、そして奴隷でもわたしより良い食事でした。」
おずおずと答えるとちょっとショックを受けた顔をしていますね。
「その上毎日その馬車ごと洗浄の魔法で丸洗いでした。」
追い討ちをかけるとにっこりとほほ笑んでいた顔が明らかに不機嫌そうに歪んでいます。
「…それはこちらの手違いで申し訳ありません」
すっごく不本意そうに謝ってくれました。
多分この人はちゃんとしたかったんですね。
まあその方が言うことを聞かせるには有効ですよね。
足をひっぱられた上に謝りたくもない小娘に謝罪を述べることになってこの人が不機嫌になるのもわかります。
「逃げた理由はわかっていただけました?」
「ええ、道中あなたが寄った街でやけに冷たい視線を受けると思っていたらそういうことでしたか。」
「え、いえさすがにどなたにも詳細はお話していないので、かれらの態度が悪いのでは?」
ちらりと隣の騎士を見れば、睨み返された。
まずそれがおかしいですよね?少なくとも表面上はこの人のように笑顔であるべきだと思うんですけど。
目が笑ってなくても!
「自分で言うのもなんですがこの世界での聖女ってとても好かれているのですよね?そんな態度で追いかけまわせば嫌われると思うんですけれど」
「…そうですね、貴女の仰る通り。はあ、まったく殿下は何を吹き込んでくれたのやら」
後半は小さく呟いていましたが、あの第一王子のことでしょう。
完全に仲良しってわけではないのかもしれませんね。
手を焼いていることも想像がつきます。
だからって同情も協力もしませんけど。
「あなたにはできれば城の者と旅をしていただきたいのですが」
「でしょうね、お断りですけれど」
「まあ少し話を聞いてくださいよ」
漸く牢屋から出されたと思ったけれど、魔力封じはそのままだ。
連れられたのは小奇麗な応接間のような一室。
そしてそこには4人の男性が居た。
嫌な予感しかしませんね!
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