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18.マリア

「リン様、お疲れとは思いますがしばらく私に身をお委ねください」

眠いし疲れたしでぼんやりしていたので、マリアさんの言葉に頷く。


では、と言う言葉と共にわたしのワンピースをひん剥き、お風呂に突っ込まれた。

なんという早業…!

温かいお湯といい香りの入浴剤で思わず長く息が出る。


「聖女様、貴女様は…」

「はい?」

「この世界の闇まで背負われる必要はございません。勇者ではないのです。お一人では無理があります」

淡々と抑揚なく告げる言葉は紛れもなくわたしを心配している言葉だった。


あれ、嫌われてないですか?


髪を優しく洗われ、オイルやらなにやらでケアしてもらい。

すっかりリラックスしたわたしをそっと抱き上げてベッドへ乗せてくれた。

待ってそんな軽々運べます?嘘でしょう。


「今日はゆっくりお休みください。お昼すぎにお呼びしますから」



もう限界だったわたしはそのまま寝てしまったらしい。

それも、ぐっすりと。





***





「リン様、そろそろお起きになりませんか?」

カーテンを開けられたようで、眩しさに思わず布団に潜り込む。

「ふふ、お腹がすきませんか?」

あれ、今笑いました!?

がばっとマリアさんを見たけれど、無表情のままだ。


空耳だったでしょうか?


「い、いただきます。」

のそのそと広いベッドから降りると、マリアさんが手を貸してくれる。

この世界のベッドはわたしには大きすぎるし高すぎるのですよ。



「その前にお召し替えを。」

じゃあ、とバッグを漁ろうとするとそれを手で制される。

「旅装はそれでよいですが、街では別の格好をしたほうが良いかと思われます」

と渡されたのはドレス数着でした。

「既製品で申し訳ありませんが、と我が主から」

「ひえ、いただけませんよ。ただでさえ泊めていただいてご迷惑をおかけしているのに!」

明らかに高そうな素材のドレスに尻込みをする。


本音はもちろん着たくない!です。

「貴女様を粗末に扱っていると悪評をお立てになりたいほどこちらでの滞在はお辛いでしょうか?」

なんて言われたので完敗です。

コルセットは無いらしいけれど、レースの下着から何から何までで着飾られるのは落ち着かない。

裸は恥ずかしいけどそうは言っていられないので諦めます。

だってマリアさん怖いんですもん!



とても綺麗な赤みがかったドレス。

多分この街が赤の精霊の街だからでしょう。

ドレス全部赤でしたから。

「この色をお召しになるとシュルツ様がお喜びになるそうですよ」

ほらねやっぱり!

ルーリアさんに貰った服も全部青かったですからね。



食堂ではなく庭へ案内される。

「よろしければこちらでお召し上がりください」

ぱぱっと用意をしていただき大変恐縮ではある。

「ありがとうございます。今日の夜ウィルさんにご挨拶したら、わたしはもう行きますね」

マリアさんには先に告げておきましょう。


この街の澱みは少なく、すでにすっかりなくなっています。

そして昨日商人の男の反感を買いましたし、城へ連絡がいっていてもおかしくありませんよね。


「そう…ですか、もしやなにか御不満が?」

「えっ!?いやいやそんなわけないですよ!!とても良くしていただいて感謝しています。けれど、この街での仕事はもう終わってしまったので」

「ではもう澱みが…?」

「はい、もうすっかりありませんよ」

「少しくらい休んでいかれてはいかがですか?」

あんまり引き留められると勘繰ってしまいますよ?


『旅続きでお疲れでしょうに…!!』

どうやらわたしを休めてくれるらしい。

少しでも城からの追っ手待ちかもとか思ってごめんなさい。



「城の追っ手から逃げています。あまり一か所にとどまりたくないのです」

ついでに人にお世話されるのもマナーに怯えるのもちょっと疲れちゃいますので!

わたしを心配してくださるのは本当にありがたいのですけれどね。


「わかりました。せめて明朝になさってください。その、お願い、ですが…」

「はい!そうですね、さすがに暗い森を歩くのは馬鹿でした。発つのは明朝にします」

なぜかほっとした顔のマリアさんに、首を傾げる。


「私は少々席をはずしますが、御用があればこちらを鳴らしてください。誰か来ますので」

静々と、だけど少し慌てたように館へ戻って行ったマリアさんを見送る。



覗くのを忘れていましたが、あまり危険がなさそうなときに覗くのも趣味が悪いですしね。



と、わたしはご飯をいただいて読書をしましょう。

"貴族のマナー(初級)"を!



――服装のマナー

上位の者よりよい服を着ることはマナー違反


「ああなるほど、このままだとウィルさんがマナー違反になると…?」

ですが貴族ではないのでいいのではないかと考え直します。

聖女ではありますが、貴族ではない。

国で最も尊ばれるかもしれないけれど、それは地位があるという意味ではないはずです。



――食事のマナー

上位の者が話を振らなければ下位の者は話さないでいるべき


おっとめんどくさくなってきましたよ。

なんでわたしが話をふらなくてはならんのです…


数ページ読んだだけですが、決めました。

わたし、貴族の方とは金輪際関わらないようにしましょう。そうしましょう。



「わたしは平民ですからね、ええ。」

そよそよと揺れる木々を眺めつつ優雅にお食事です。

有り難いですね本当。






20200118:誤字報告ありがとうございます

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