14.次の街
その後食べ物や衣服を与えられ続け、お約束の3日が経ちました。
一体どこから調達してきたのか謎でした。
教えてももらえませんでした。
「もっとここへ引き留めたいがそうはいかぬな。またいつでも来るといい。」
「ありがとうございます、ルーリアさん!」
「青の魔法を使う時は我の名を呼ぶことを忘れるでないぞ」
「はい!」
ルーリアさんに森の端まで送って頂き次の街を目指します。
最後にすっかり澱みの消えた美しい森を見せてもらいました。
「其方がこの光景を作っているのだ。誇ってよいぞ」
なんて励ましてもいただけました。
嬉しいですね。とくに頑張ってはいないんですけど。
居るだけで効果を発揮するタイプの空気清浄機ですしね。
ルーリアさんによるとしばらくは"ルーリアの街"より小さな規模の街ばかりになるようです。
その付近の上級精霊は皆ルーリアさんより格下なようなので当たり前だそうです。
規模が小さければ澱みも少ないそうなので、さくさく進んでいきたいところです。
乗り物などがあると便利ですけど。
あとはやっぱりお金が稼げるといいのですけど。
整えられた道だが、人通りはない。
時間帯かな、と白み始めたばかりの空を見る。
あまり人目に付かぬようにと早朝の出発だった。
遠目に門が見えるので、そこが次の"シュルツの街"だろう。
赤の上級精霊シュルツの森が街の中というか領主の館の敷地にあるらしい。
ルーリアさんによると、既に力を貸している人間がいる上級精霊は他の人間には姿を見せない決まりがあるそうで、精霊のシュルツさんは姿を見せてはくれないらしい。
ルーリアさんは、「其方に会いたいと悔しがっているようだが決まりだから仕方あるまい」と笑っていたので嫌われているわけではなさそうです。
だいたい街を持つ上級精霊さんは、その街の長つまり領主と契約するそうです。
ルーリアさんのように最上級クラスになると、個々と契約するのではなく治める領主一家へ力の一部を貸し与えると言う感じだそうで。
わたしとは契約してくださったらしく額に浮かぶ青い印がそれを証明するそうです。
鏡で見せてくださったのですが、おそらく6つ集まると模様になるのでしょうね。
そういう配置にみえました。
「どうせ他の長たちも契約していくだろうから覚悟しておけ」
と有り難くも太鼓判を押していただけました。
聖女の力が澱みを吸って使うのなら、いずれ使えなくなりますしね。
魔法が使えるならその方が助かります。
などと考えつつも無防備に歩いていました。
無防備に、ええ。確かにベネディクトさんは、危険だと言っていたのに。
気付けば身なりの悪い大男の集団に囲まれていました。
大男というかおそらくこの世界では平均的なのでしょうけど、わたしからすると巨大に見えます。
200cm超のラグビー選手5名に囲まれていると思ってください。
フォワードのがっしりした方々ですよ。
「聖女様、あなたを連れていくと金がでるらしい。大人しくついてきてください」
言葉遣いはなんだか丁寧だし、下手に出て下さっています。
断わってみましょう。
どうやらあまり危害はなさそうです。
「お断りします。お城の方からのご依頼でしょう?」
見るからに狼狽えないでください。
悪いことをしてしまったように見えてしまうではないですか。
「で、でも王子サマからの依頼でな?」
「ええ、そうだろうと思っていますよ。」
「だから、な?行きましょうよ。俺らは城の兵たちと安全に旅をしてほしい」
どうやら身なりは悪そうですし、お金目当てではあるようですがわたしの身は案じてくださっているようです。
不思議な方々ですねえ。
「わたしは城の方々に嫌われているようなのです。できれば戻りたくありません」
「そんなわけねえです!この世界で聖女様を嫌うやつなんているわけありません!!」
大男たちが必死に説得してくださっているのですが、おそらくこの絵面、よくないですよね。
だからでしょうねえ。
「嫌がる女性に強引な同行を求めるのはいただけないな」
馬上からわたしを引き上げ、涼やかなインテリ眼鏡っぽい声で彼らを制する人が颯爽と現れました。
お顔を見上げるとお声通りのインテリ眼鏡です。
「聖女様を離せ!!」
「彼女は嫌がっているようだったが。そうですね?」
「はい、わたしは同行を拒否しました」
味方かどうかはわかりませんが、同意します。
「それと、これ以上道を塞ぐならば排除も視野にいれるが」
何かを彼がごろつき風の彼らにみせると、顔を青くしてさっと道の端に避けていきました。
なんでしょう、印籠的なやつ?
とすると貴族の方とかそういうことでしょうね。
それはよくないですね。
貴族の方はどうも城へ報告を上げねばならないようなので。
わたしを乗せたまま、"シュルツの街"へ到着しました。
ノーチェックで街へ入って行ったので、かなりの実力者の方なのでしょうね。
そろそろ降ろしていただきたいところです。
「ええと、あの…」
「ゆっくりになったとはいえまだ揺れます。お話にならないように」
さっきも舌を噛むからと発言させてもらえませんでした。
まだ駄目だったようです。
街の方々が、聖女様!と呼びかけて下さるので笑顔で応じます。
その中に領主様!という言葉も聞こえたので、間違いなく彼のことでしょうね。
領主って貴族だと思うので、まさか単騎でいらっしゃるわけないと思うんですけど。
護衛とかいないのでしょうか。
上級精霊のシュルツさんと契約しているから平気とかそういうことでしょうかね。
そろそろ落ち着いてきたので彼の心を読みたいのですが、いかんせん街の人に笑顔で手を振るという仕事の途中なのでしづらいです。猛スピードの馬上でもできませんでした。
「ここが私の館です。どうぞ」
「はあ、どうもです」
つい適当な返事になることは許していただきたいですね。
この先に城の兵がいないとも限りません。
…果たしてだれもいませんでした。
疑ってごめんなさい。
心中も『聖女様をおもてなしできるなんて光栄だ。シュルツも喜んでいるな』でした。
「何も説明せず申し訳ありません、聖女様。」
「ええと、リンです。」
「リン様、美しいお名前です。どうかこの街へ滞在中はこの館をご利用ください。」
何かのベルを鳴らすと、すっとメイド服の女性が現れる。
「このマリアを付けます。要望があればなんでもお申し付けくださいね」
「ええと、どうして…」
「聖女様を持て成すのはこの世界の人間の義務であり喜びです。」
わたしを歓迎してくれるのでしょう、と聞きたかったのですが喰い気味に返事をされます。
無表情に見えますが興奮してます?
よく見ると落ち着いたベージュの髪が時折炎のようにめらめらと揺れている。
興奮しているのはシュルツさんの方でしょうか。
「でも、わたし、追われているみたいで…」
ご迷惑がかかってしまいますと続けたかったのですが、それも遮られる。
「問題ありません。城への報告義務があるのはルーリアの街のように大きな街のみ。我がシュルツの街は城からの派遣兵がいませんから」
彼のお話によると、大きな街には城から派遣されてきた兵が貴族区の門を任されるようです。
この街は貴族区、商業区のように隔てがなく、街の門のみだそうで。
「ではお言葉に甘えさせていただきます。ええと」
「申し遅れました。私はウィリアム・シュルツ。このシュルツの街を治める侯爵家の長にあたります。」
わたしが知っている侯爵の定義とは違いそうだなと思いつつ頭を下げる。
貴族式の挨拶とかわかんないし。
「数日お世話になると思います。シュルツ様」
「私のことはお気軽にウィルとでもお呼びください。聖女様であるリン様が遜る必要はありませんよ」
マリアと呼ばれたメイド服の女性にちらりと目配せすると、ウィルさんはどこかへ行ってしまった。
「お部屋へご案内したします、リン様」
美しい所作の美しい女性を見るとちょっと興奮しちゃいますね!
すみません、200cmが2000cmになっておりました(20.01.09)




