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12.ルーリアの森

てくてくと森を進むこと1時間ほど。

そろそろいいでしょう、と適当な岩に腰かけます。

ベネディクトさんにもらった本が素晴らしく、なんと今いる地点がわかるのです。

もしかしてお高い魔術具なのかもしれません。

使い終わったら返すべきですね、これは。


この地図の示す通りに進めばきっと浄化してゆけるのでしょう。

地図を読むのが苦手でもさすがにこれならば迷いません。

スマホいらずですね、助かります。



以前考察したように、おそらく澱みを吸い取って聖女の力にできるので、わたしは空気清浄機とかそういう存在なんでしょうね、多分。

だから街や森を巡ることがわたしのお仕事ということでよさそうです。



本を開き、この森について確認します。

先ほど出た街は王都から5つほど離れた場所にあるルーリアという街。

そしてこの森はルーリアの森。

青の精霊を総べる最上級精霊であるルーリアが住むからルーリアの森。

強い精霊の住む場所の近くに街は作られ、その精霊の強さによって街がどれほど繁栄するか決まるらしい。

加護とかそういう話でしょうか?



だからルーリアの街はかなり大きかったのですね。

会わなかったけれど領主はかなり上の貴族だったのかもしれない。



街の外には澱みから生まれる魔獣や悪い人もいるらしいので出来るだけルーリアの森を通るようにってベネディクトさんからメモが挟まっていた。

名前もわからない奴隷斡旋屋さんの鞄の中も確認してみたけれど、食べ物が沢山入っていて本当に感謝したい。

わたしの足ではおそらく次の街まで20日ほどかかってしまう。

けれど、食糧がたっぷりその日程分ほどはいっていた。

加えて保存の魔法でもあるのか、鮮度が保たれている。


「保存ってどの精霊さんの管轄でしょうね?」

もう少し魔法についてしっかり学ぶべきでしたね。

ベネディクトさんはわたしなら何でも願えばかなうって言っていたけど、一応どの精霊さんにお願いするかくらいはわかっていたい。


たぶん、精霊さんお願いしますでいけるんですけれど、少々不誠実ですよね。

あと魔法で何ができるのか、謎が深まるばかりです。




そういえば、とベネディクトさんを覗いてみる。大丈夫でしょうか。

『ここに聖女様はいらっしゃいません。お帰り下さい』

たくさんの、なんだか見覚えのある兵士たち。

うーん、もう顔はぼんやりとしか思い出せませんね。


『この街に聖女がいるのだろう!?貴族区から報告が挙がっているぞ!!』

『さあ、存じ上げませんね』

しらを切ってくれるらしい、助かります!!

けれど怪我とかはしないでほしいです。


どうやら兵士たちはあきらめて貴族区にいくのでしょうね。

教会を出ていきました。


『聖女様、どうかお逃げください…あの者たちは貴女様を…!』

悔しそうに呟く姿。わたしについてなにか言われたのかなあ、気にしなくてもいいのですけれど。



続けて貴族区の門番さんの顔を思い浮かべます。

うろ覚えなので無理でした。

顔がうろ覚えだと見れないのですね、顔を覚えるのが不得手なわたしには少々きついですね。


では、あの奴隷斡旋屋さんであれば今はまだ思い出せます。

『聖女様はお逃げになっただろうか』

ここには兵たちは来ていないようですね。

みなさんわたしなんかのことを気にかけて下さって嬉しいです。


『この店へ聖女が来たと目撃証言があったが』

丁度来てしまったようですね。

いえ、やはりリアルタイムではないのですね、この千里眼。

都合がよすぎます。


『はい、いらっしゃいましたよ』

『奴隷を買っていったのか?』

『いえ、奴隷の怪我と病気を癒して行かれました』

『その後どこへ行った!?』

『さあ、店を出たあとのことは存じ上げませんね』

『クソッ!!』

随分態度の悪い兵士たちです。

暴力なんかに訴えないのはまあまだいいですけれど。



ご迷惑をかけて申し訳ないけれど、このままだと見つかってしまいそうですね。

折角逃がしていただけたのですから、森を進みましょう。



どうやら地図によると、精霊の住居のようなものがあるようで、折角なのでそちらを目指します。

巡礼道以外は詳しい地図がないので道はわかりませんが、ここは動物さんたちに聞いてみましょう。

幸い鳥さんたちが寄ってきてくださったので。


「すみませんが、ルーリア様のところへ案内してくださいませんか?」

ぴちぴちと鳴く鳥たちに囲まれ、のんびり森を行きます。

美しい木漏れ日がそよそよと揺れる風景はいつまでも見ていられそうです。



心も穏やかになるようで、社畜だった過去をすっぱり忘れられそうです。

かつてシステム系の末端の末端の会社で働いていて、無茶ぶりをするクライアントやできないのにできると言って持ち帰ってくる営業にイライラしたものです。

尻拭いはいつもわたしたち技術者でしたから。


ええ、それはもういいのです。忘れましょう。

きっとわたしが急にいなくなってしまったので、プロジェクトのひとつは納期が守られないでしょう。

無茶な納期を設定してきた顧客が悪いと言うことにしましょう、ええもう忘れます。




帰れないのですから。




あれから何度も千里眼で自分の世界が覗けないものかと試しているのですが、千里眼の適用範囲はこの世界までらしく無理なのですよね。

わたしの能力が成長すれば見えるかもしれないので今後も試しますけれど。


会社はどうでもよいのですが、置いてきた家族や恋人は少し気になりますから。

一応いたのです、恋人。

まあ最後にあったのはここに召喚される3ヵ月前でしたけど。

お互い同業の社畜だと本当会えませんね。

恋人が妄想だった気すらします。

あれ、本当に妄想だったかもしれませんね。

連絡も取っていませんでしたし忘れてしまいましょうか。




色々考えながら歩いていると、やがて開けた泉が現れました。

どうやらここがルーリア様が住まう場所のようです。

立派な建物があるので間違いないでしょう。

どこか懐かしい和風の建築のようにも見えます。



扉の前でご挨拶です。

「ルーリア様、聖女リ…」

いやここで偽名はまずいですね。

「こほん。聖女スズ・クジョウです。ご挨拶に参りました」

九条涼、字面が中性的で気に入っている名前です。

自分で聖女と名乗るのはかなり恥ずかしいですが仕方がありません、職業名と思うことにします。


ご挨拶とともに、ふわりとよい香りがしたかと思うと。

目の前には美しく輝く青い龍が鎮座されていました。

中華や日本の長いタイプの龍さんです。

扉の前にいたはずなのに、建物の中に一瞬で移動したようです。



「よく来たな、スズ。我、ルーリア・カエルレウムは其方を歓迎しよう。」

その龍が人型になった途端、手を取られて体を引き寄せられ、額へ口付けられた。

あっという間の出来事すぎてついていけません。


「これで我の加護が其方に掛かった。いつでも呼ぶがいい、駆けつけよう。

我の管轄の魔法であればどのようなものでも力を貸してやろう。」

そっと髪を撫でられ、目の前の美形に口をぱくぱくすることしかできない。


王子様や神官長も美しかったけれど、そんなの霞んでしまうくらい美しい。

さすが精霊の長、なのかな。

他の長もこんなに美形なのかな、死んでしまいます。




「数日ここへ泊るとよい。兵共はここへは来られぬ。」

「あ、ありがとうございます!ルーリア様!」

「こら、其方は異邦の民。我に必要以上に傅く必要はないのだぞ。気安くルーリアと呼ぶがいい。」

優しく目を細めて微笑む美形に心臓がぶち壊れてしまいそうです。


やめてください目がつぶれてしまいます!







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