1.導入
ご覧いただきありがとうございます。決めてない部分もたくさんありますがよろしくお願いします。
ずぷり、と足元が唐突に沈む。
仕事帰り、人気のない住宅街を歩いている時のこと。
そして目覚めたそこは、何かの祭壇の上で。
燦々と注ぐステンドグラスの灯りとか、揺れる蝋燭とかをぼんやりと眺めたあと、漸く騒々しく喚く目の前の人々に視線を向ける。
一様に空色のローブのような服を纏った、おそらく神職に就いているだろう集団と、目立つ赤の煌びやかな洋服を着た男。
そしてその男の傍に数人の騎士らしき人。
何か言っているようだけれど、ひとっつもわかりませんね。
どうやらわたし、異世界転移してしまったようです。
と早々に結論づけることにしました。
何か話している言葉が、そもそも言語にすら聞こえなかったから。
わたしの耳には唸り声にしか聞こえずに、少々怖く思います。
まさかここでいきなり殺されたりしませんよね?
なんとか神様への生贄だー!ずぷー!みたいに。
齢2…乙女の歳は内緒です。ええ、聞かないで。
…の人生に早々に幕を閉じたくはないのですけれど。
空色ローブの内1人がフードを外し、顔を見せてくれる。
ローブに似た空色の髪を編んで前に垂らしているその長身の男性(多分)は、恐らく安心させるように微笑みながら何かを差し出す。
金色の指環のようです。
そんな得体の知れないものを付けたくなくて、ぎゅっと手を結ぶと困惑したように眉を下げられる。
困惑したいのはこっちなんですけど?
いくら平和ボケした日本人でも全く状況わからずにその指環嵌めるわけなくないでしょうか。
馬鹿なの、おっと言葉が悪いわ。愚かなのかしら。
必死にジェスチャーで何か伝えてくるのが滑稽ですらあるのだけれど、問題があります。
わたしの眼鏡、どこですか。
そう、視力0.01以下になってから測っていないから今いくつかわからないのですが、前が見えていません、わたし。
だから色くらいしかわからないし、漸く近づいてきた男性(仮)の髪型がわかったくらい。
困りました。
困惑して首を傾げていると、赤い服の男がつかつかと近づいてきて、わたしの手を強引に取る。
そのまま男性(仮)から奪った金の指環を勝手に嵌めてしまった。
馬鹿力!!
結構しっかり抵抗したのにクソ…いえこの方野蛮だわ。うふふ。
「殿下、女性に乱暴はいけませんよ」
嗜めるような言葉を吐いたのは空色ローブ空色髪の男性(確定)。
「言葉が通じねば先へ進めぬ。仕方なかろう」
殿下と呼ばれた赤い服の男がわたしの手を掴んだまま言っている。
もう離してほしいのに、びくともしない。
ほんっと馬鹿力、日本人男性なら少々は動くと思うんですけれど。
「さて、何を言っているかもうわかるな?あの指環は言葉を解するもので、他に効果はないから安心しろ」
安心なんてできるわけあるか、です。
見ず知らず初対面の人の言葉を信用なんてできません。
しかも誘拐犯。
とは思ったものの、しぶしぶ頷く。
話がすすまなさそうなので。
「殿下が乱暴にしてしまいすみません、この方はフロレンティア王国の第一王子であらせられるジルヴェスター殿下です。私は神官長兼この方の側近であるランプレヒト」
「お前の名を名乗れ」
ランプレヒトさんの言葉を遮って前にしゃしゃってくるこの感じの悪い人がなんと王子らしい。
よく見えないけれど10代かな、馬鹿っぽいですし。
こんなのが第一王子で大丈夫?この国潰れません?
「リンです」
嘘ですが。
よくお話でもあるように、真名は大事かもしれませんので。
わたしは読書家ですから。
一応適当な名前を名乗っておきます。
リンです。わたしはリン。
さっきまで聴いていた曲を歌っていた人。
そういえばそのイヤホンもありません、持ち物が何一つとしてないようです。
「そうか、リン…お前はこの世界を救う聖女として召喚された。せいぜい励め」
「はいはい、殿下。詳しい話をしておきますからお戻りになってください」
あとは任せたなんて言ってその赤いのはどっかいった。
「では改めて、急に申し訳ありませんがここは貴女が暮らしていた世界とは別の世界です」
曰く、この世界に一定周期で澱みが広がり、聖女がそれを癒さなければ世界は暗黒に包まれ滅びてしまう。
その聖女は異世界から召喚するしかなく、元の世界へは戻れない。
魔法やなにやらが必要なわけではなく、そして生贄なんかになるわけでもなく。
ただ各地へ赴くのが仕事らしい。
その仕事が完遂すると、あとは自由。
一生生活できるだけの金銭を渡すので悠悠自適に暮らしてくれ。
とのことらしい。
勝手に呼びつけておいて、終わったらぽい、らしい。
ふざけてません?
けどまあ仕事らしい仕事もなく、ただ運ばれればいいそうなので、
それくらいならしてやってもいいかと思いました。
そうですね、読書などさせていただけるなら。
帰れないらしいですし。
それがどこまで本当なのか、わたしはまだひとつも信用していませんが。
「わかりました。」
とひとまず従順なふりをして頷いたのでした。
20200116:誤字報告ありがとうございます。「見知った」ですが、わざわざ書くこともないなと判断したので削除しました。
20200118:誤字報告感謝します。×そのこと○とのこと