肉の人形
大部屋で待ち受けていたのは死体の山だった。
それも死んだばかりの新鮮な死体のみ、部屋いっぱいに積まれていた。
「お、おいシュージ、これって……」
「落ちつけ、ケイウッド。これはおそらく……」
俺たちが部屋に入ると、まるでこちらの侵入に反応したかのように死体の山がうごめいた。
「うへ〜、気味悪いわ〜」
「ラブ、これはいったいどういう仕掛けかわかる?」
そういえばガタイのいいマッチョはネクロマンサーだったか。
死体のことについては詳しいわけだ。
「慌てても仕方ないわよん。シュージちゃんが言う通り、落ち着いて待つしかないわねん」
やはりそうか。
ネクロマンサーも俺とおなじ判断を下したということで敵の正体が確定した。
「シュー、これ、敵……?」
おびえて俺の服の裾をつかむネムリの肩を抱いてやる。
「ああ、こいつは……フレッシュ・ゴーレムだ」
眼前でうごめいた死体の山は一点に向かって凝縮されていき、つぶれた肉から噴き出した血が肉と肉をつないでいく。
肉がぶつかり、つぶれ、合わさり、またぶつかって一つの塊になっていく。
それはしだいに巨大な人の形へと形成されていった。
凝集のくり返しの結果、オーガの巨体に勝るとも劣らない肉の人形が完成した。
それも三体、それぞれに形を成したあと、生者である俺たちに反応して、ゆっくりとその巨体をふり向かせた。
「これは、あまり気持ちいい敵じゃあないね!」
「基本はオーガを強力にした感じのモンスターだ。戦い方もおなじでいける。ただし、めちゃくちゃ耐久性が高いぞ!」
俺はすでに剣を構えているガルドに声をかけた。
「ガルドさん、一体まかせていいですか? 残りの二体は俺たちとパトリシアのパーティでそれぞれ何とかします! パトリシアもそれで構わないか?」
「やってやるわ!」
「うむ、任された!」
俺とパトリシアのパーティはフレッシュ・ゴーレムの注意を分散させるように中央のガルドから距離を置いた。
俺たちケイウッドパーティに向かってくるフレッシュ・ゴーレムは一体のみ。
しかし、一応は生物であるオーガと違い、人間の死体によってできあがったこのアンデッドモンスターは戦う者の戦意を挫く。
「みんな!」
俺は仲間たちを集め、短い呪文を詠唱する。
「《勇敢なる戦意》!」
俺たちの体を赤い光が包み込む。
「お、なんか頑張れそうな気がしてきたよ!」
「シュージ、ヌシは面白い魔法やスキルを使えるのう」
本当ならプリーストやクレリックが使用する神聖魔法だからそう思われるのも無理はない。
だが、できるだけネムリのMPは温存しておきたいからここは俺が代役を担った。
まあ、ぜんぶ転生前のやり込みのおかげなんだけどな。
「ネムリも大丈夫か?」
「うん! もう怖くないよ!」
それなら重畳。
俺は《火属性付与》のポーションを取り出して自分のロングソード、ベルナンディアの《巨人殺し》に液体を付着させていった。
「フレッシュ・ゴーレムはアンデッドだが神聖魔法は効かない。その代わり火属性の攻撃は効果的だ。俺とベルナンディアで前衛を、ネムリとメルティエが後方から支援を、ケイウッドは二人を守りつつ弓矢で牽制してくれるか?」
「了解だよ!」
「問題なかろう」
「うん、わかった!」
「任せてください」
準備は万端だ。
のそのそと近づいてくる肉の巨人を睨みつけ、俺とベルナンディアは駆け出した。