一階のボス部屋
魔侯爵の城の一階は入り組んではいたものの単調な一本道だった。
そして、行き着いた大部屋には二階に続く階段を守るかのようにモンスターどもが居座っていた。
「……腑に落ちないわね」
パトリシアがメイスを取り出しながらつぶやいた。
「全くだ。まるで攻略されるためにあつらえられたかのようだ」
レンジャーのレクストが同意しながらナイフを抜く。
おそらくこの大部屋が一階最後の部屋だ。
部屋を埋めつくしていたのは青い半透明なスライムの大群だった。
「攻略されるため、か。言い得て妙だな。魔侯爵を名乗る者の城にしては敵が弱すぎる」
ガルドもその点については同じ思いだったようだ。
当然、俺やベルナンディアもその点を奇妙に感じていた。
だからこそ警戒すべきとも同時に感じた。
俺は《無限の宝庫》からラージスライムのビンを取り出した。
「みんな、ここは俺に任せてくれ」
パトリシアやガルドたちの前に立ち、スライムの大群に対峙した。
ビンのふたを取ってラージスライムを呼び出す。
するとラージスライムはすぐに何かを察したかのようにスライムたちの群れへと飛び込んでいった。
「シュウジくん、いまのスライムってなんやの?」
「俺がテイムしたラージスライムだよ。レベル的に負けることはないと思うけど」
ナルミはそういう意味じゃないんやけどなあ、とボヤきながら両腕を手でさすった。
「シュー、あのスライム、ひとつになってる?」
「ああ、思ったとおりだ。同じスライム種ならレベルの高い個体に吸収されるんじゃないかってな」
俺が放ったラージスライムは部屋中のスライムどもをどんどん受け入れ、一個の巨大なスライムへと成長していた。
青く半透明な巨大スライム。
だが、スライムには自己の体積を調節する能力があったはずだ。
「ラージスライム、元の大きさにもどれ」
俺が命令するとラージスライムは動きを止め、もぞもぞとうごめいた後、ビンから飛び出したときと同じ大きさまでゆっくりと小さくなった。
「シュージちゃん、モンスターテイムのスキルが使えるの?」
ラブが感心したように両手で顔を包み、体をクネらせながら近づいてきた。
俺は後ずさりしながら、ラージスライムを元のビンにもどした。
「ああ。ただし、このスライムは苦しまぎれに捕獲したものだ。あのときはゴブリンにも苦戦していたときだったからな」
そのスライムがこうした形で役に立つとは思わなかった。
捕獲しておいてよかったな。
「モンスターが仲間として戦ってくれるとは、なんだか不思議な気分ですね」
「敵対していないだけで、わしらもヒト種とは異なる種族じゃからの。スライムもスライムだからと一括りに敵扱いはできぬものじゃな」
エルフ族であるメルティエ、ドワーフ族であるベルナンディアが発すると言葉の重みが違う。
敵対していないだけ。
俺はその言葉に王国と帝国の小競り合いの件を思い出した。
同じ人間同士でも主張が異なれば矛を交えることになる。
「さ、スライムは一掃できたし、ちゃっちゃと次の階にあがろうじゃん」
ケイウッドの言葉にうなずき、俺たちは魔侯爵の城の二階へ続く階段をのぼった。