王国軍の意向
「ちょっと失礼かもしれないですがいいですか?」
「忌憚なく意見してほしい」
俺はまず否定されるであろうことを確認する。
「その魔侯爵退治、帝国と協力はしないんですね?」
ボルゲン丘陵の頂に居を構えているということは王国側だけでなく、帝国側にとっても降ってわいた災いなはずだ。
ならば両国にとって不都合な存在は力を合わせて倒せばかかる労力も安くあがるだろう。
だがガルドは予想どおり、
「理屈は分かる。だがそれはできぬ」
ガルドは悔しそうに歯を食いしばった。
本当はそれがベストな選択だとガルドも理解しているのだろう。
だが敵対していた帝国と手を結ぶなど、王権簒奪をねらう貴族派閥にとってこれ以上ないほどの攻撃材料にされてしまう。
俺はもう一つの考えについても確認した。
「もう一つ。その魔侯爵の軍勢が帝国軍よりたやすく蹴散らせるものだと判明したら王国軍はどう動くんですか?」
「え、倒すんじゃないの?」
ケイウッドが不思議そうに首をかしげた。
ケイウッドの疑問に答えるようにメルティエが言葉をつないだ。
「帝国軍より弱いなら、いつでも倒せるのだからあえて倒さず、むしろ帝国軍への壁として逆に利用することもできるのではないか、そう言いたいのですね?」
メルティエの説明に、ケイウッドは感心したように何度も首を縦にふった。
「それも一案としてあった。だがやはり許されないのだ。敵が同じ人間であれば赤い血が流れる。その痛みも知っている。だが魔族を相手に手をこまねいていては王家の威光に影が差す」
やはりそうなるか。
おなじ人間相手なら敵といえど滅ぼすことに躊躇を覚える。
だが魔族に対して倒せるものを倒さないでおくのは臆病風に吹かれたと評されるのがオチだ。
そして俺は最後の質問をしようとして、だがベルナンディアに先を越されてしまった。
「簡単なことを聞きたい。もし魔侯爵の軍勢のほうがヌシら王国軍より強大であった場合、どうするのじゃ?」
ガルドは言葉に詰まってすぐには答えなかった。
人間と魔族、単純な比較はできないが個体としての能力では魔族に分がある。
数では圧倒できても全体の戦力で負けてしまっては意味がない。
ガルドは苦しそうな表情でなんとか言葉をひねり出した。
「死んでも勝つ。それ以外に我々の進むべき道は残されていないのだ」
無謀としか思えない返答だった。
だが、その場にいる誰もがガルドの心中を察して反駁することはできなかった。