内職の報酬
ネムリの魔法による疲労が抜けたころ、乾燥した薬草を片っ端から薬研で粉々にし、水を入れたビンに混ぜて大量に薬草水をつくった。
これで当分は回復にこまることはないだろう。
「ネムリ、俺はアイテム屋に行ってくるから部屋にもどっていてくれないか?」
「うん、わかった!」
「もしだれか目を覚ましたら宿屋のオヤジに言ってメシをつくってもらって食べさせてやってくれ」
俺はネムリに水袋をわたし、酔っ払いどもの世話を頼んだ。
ごめんな、ネムリ。
お前みたいな小さい子にだらしない大人たちの世話を任せちまって。
俺は申し訳ない気持ちを抱えながら「アイテムショップ グース」に向かった。
「おう、また兄ちゃんか。今度は何の用だい?」
アイテム屋のオヤジはすっかり常連客みたいになった俺を元気に出迎えてくれた。
「アイテムを売りに来た。例の空きビンだよ」
俺はカウンターに《火属性付与》、《氷属性付与》のポーションと《火属性耐性》、《氷属性耐性》のポーションをそれぞれ取り出した。
「こ、これは……!」
「見てのとおり、マジックアイテムさ。《鑑定》のスキルで確認してくれ。付与も耐性もそれぞれブロンズ3級くらいの効果はあるはずだ」
マジックアイテムの精製はアイテム使いとウィザードやプリーストが協力してつくるのが通例だ。
アイテム使いだけでは魔法が使えないのでつくれないし、ウィザードやプリーストだけでもアイテムに魔法を込めることはできない。
また、こうしたマジックアイテムをつくれるメンバーが揃っている場合はわざわざ内職するより冒険者としてクエストをこなしたほうがレベルも上がるし、手っ取り早く金が手に入る。
以上のような理由から特に初級者向けの使いやすいマジックアイテムは市場での流通量も少なく、非常に重宝される。
俺はそこに目をつけたというわけだ。
もちろん、自分たちが冒険で使用することも考慮してだが。
「これはいい品だ……! 属性付与のポーションは銅貨4枚、属性耐性のポーションは銅貨10枚でどうだ?」
属性付与より属性耐性のポーションのほうが値段が高いのは、そのアイテム効果によって命を守ることができるからだ。
属性付与も属性耐性も必要となる場面はけっして多いわけではない。
しかし、これがないと先に進めない場面が冒険をしていればかならず訪れる。
特に敵が倒せないだけならまだ引き返せばいい。
しかし、相手が強大で逃げなければ命を落とすような場面では属性付与より属性耐性のポーションが言葉どおり命綱になる、というわけだ。
使う機会が多くないとはいえ、どんなパーティでもかならずいくつかは手もとに置いておきたいアイテムなのだ。
「おいおいオヤジさん、そりゃ安すぎだろう。初級冒険者が安心して使えるマジックアイテムだぜ?」
初級冒険者向けのマジックアイテムをセールスポイントにできればアイテムショップとしての格は数段あがる。
レアだけど高い品ばかり置いてある店より、誰でも欲しがる、すこし貴重なアイテムを安定的に供給できる店のほうが客足も伸びる。
アイテム屋としてはノドから手が出るほどほしいアイテムのはずだ。
それを売ると言っているのだから、こちらもすこし強気に交渉できる。
「平均的な店頭販売価格はだいたい属性付与が銅貨10枚、耐性付与が銅貨20枚ってところだろう? さらにこれらは通常より効果がかなり強い。その分を上乗せして売るなら銅貨16と銅貨40はいける。そこから逆算すれば属性付与の仕入れ値は銅貨12枚、耐性付与は銅貨30枚でも十分に利益が出る代物だろうさ」
俺はさらに付け加えた。
「しかもそれが大量に在庫を確保し、品切れを起こすことなく売りにできるならこの値段でも安いと俺は思うけどね」
マジックアイテムを買いに来た客がそのついでに他のアイテムも購入していけば店としては万々歳だ。
「うーむ……ちなみに何個くらい売ってくれるんだ?」
「とりあえず今はそれぞれ50個ずつだな。それを売った金でまた空きビンを買って、さらに大量に売りに来ることもできるぜ?」
「うむ、乗った! 買い取らせてもらうぞ。ただし、条件がある。あるだけ買い取るかわりに売るのはうちの店だけにしてくれ。他の店にも売られたらうちの店の売れ行きに影響が出るからな」
「専属契約ってことか。了解したぜ」
俺は大量にマジックポーションを売りさばき、そしてさらに大量の空きビンを仕入れてアイテムショップを後にした。