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ネムリの真実

「おお、さすが高いだけあって広いなあ」


 大浴場は広々とした浴槽に湯がなみなみと張られており、また小型の浴槽には炭酸水だろうか、泡立つ湯船もしつらえてあった。

 壁面には神話か伝説か、絵物語のような人間や天使、悪魔などの絵図が描かれている。

 壮観のひと言だ。


「よし、まずは湯船につかる前に体を洗うぞ」


 俺はネムリの手を引いて壁際に移動した。

 壁際にはお湯の流れる溝が壁伝いに続いていて、そこから湯を汲み取って使うらしい。

 俺はネムリをとなりに座らせ、木桶で湯をすくった。


「まずは頭から洗うぞ。目を閉じておけよ」


「うん!」


 ぎっちり目を閉じたネムリの頭に湯を満遍なくかけてやる。

 ネムリの黒髪は背中にまで達しているから意外と洗うのが大変そうだな。

 せっけんを手にとり、たっぷり泡立ててネムリの髪の毛に指を差し入れていく。

 髪先も持ち上げて全体をゆるやかに、髪が絡まらないように気をつけて洗っていく。


「かゆいところはないかー?」


「だいじょうぶー」


 指の腹で痛くないようにやさしく頭皮を刺激してやる。

 泡だらけになった頭にふたたび湯をかけ、せっけんを落とす。


「んじゃ、次は体を洗うぞー」


 番頭に借りたタオルにせっけんをこすりつけ、十分に泡立てたらまずは背中から洗っていく。

 背中が終わったら脇と脇腹。

 くすぐったそうにネムリは身をよじった。


「ようし、ネムリ、立ってこっち向いてくれ。前も洗うぞ」


 俺はタオルに追加でせっけんをこすりつけ、泡立ててから前を向くと、ある違和感に気付いた。


「ん?」


 ネムリがこっちを向いて立っている。

 それはわかる。

 だが、そこにあるべきものがない奇妙な違和感がある。

 先ほど脱衣所では気付かなかったが、ネムリにはあるものがなかった。

 男なら誰しもついているはずのものが、そこにはなかった。


「え、ネムリ?」


「なに?」


「お前、女だっけ?」


 大事な大事な質問を問いかけるとネムリは何をあたりまえのことを聞いているのかとでも言いたげな不思議そうな顔で、


「うん、ボク、女の子だよ?」


 えええええウソだあああああ!

 え、ボクって一人称なのに女の子なの?

 いや、たしかに女の子にも見えるくらいの美少年ではあるけどこんなに中性的で実際に女の子だなんてありえるのか?

 え、え、えええええ???


「そ、そうか、ネムリは女の子だよな……」


 まてまてまて、理解が追いつかん。

 でもまあ落ちつけ、俺よ落ちつけ。

 たしかに勝手に男の子だと思っていたのは早計だった。

 女の子にも見えるならその可能性も考慮すべきだった。

 ちゃんと確認しなかった俺が悪い。

 うん、俺が悪い…………って、やっぱり納得いくかー!


 俺は混乱する頭のなかをひとまず置いといて、ネムリの体を洗ってあげることにした。


「よし、前も洗うぞー」


 驚きはしたが相手は子ども。

 特別、異性を意識することもない。

 親戚の子と風呂に入っているとでも思えばいい。

 鎖骨から胸、腹を洗ってあげるとネムリはやはりくすぐったそうに体をよじった。

 タオル越しに伝わってくる感触が途端にやわらかく、女の子を感じさせる。

 下半身もササッと洗って湯をかけてあげた。

 女の子、だったのか……。

 一糸まとわぬ姿をちゃんと見るとたしかに男の子のように筋肉がついているようには見えない。

 俺は自分の頭と体を手早く洗い、ネムリと湯船につかった。

 このことは深く考えないようにしよう。

 もちろん後でケイウッドらに報告する必要はあるだろうが、ネムリはネムリだ。

 男だろうと女だろうと仲間になったことに変わりはない。

 俺は程よく熱い湯船に首までつかりながらため息をついた。

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