公衆浴場
ポーション作りにひと区切りついたころにはネムリの木椀のスープも空になっていた。
「おなかはいっぱいになったか?」
「うん!」
口の端にパンくずをつけて、満面の笑みでうなずいた。
ネムリの笑顔に思わず俺も笑みをこぼす。
まっすぐで屈託のない笑顔には人を癒す力がある。
それが子どものものならなおさらだ。
平和の象徴といってもいい。
この世界もモンスターがいなくなって平和になったらこういう笑顔であふれる世の中になるんだろうか。
なんて、感慨にふけるものの、モンスターがいて魔法が使える世界だからこそ俺はこの世界に惹かれるのだ。
詮無いことを考えるのはやめよう。
「そうだ。ネムリ、風呂でも入りに行くか?」
昨日は疲れていたから食べるものだけ食べてそのまま寝てしまった。
すこし体がベタベタする。
キレイ好きってほどでもないが、疲れといっしょに汗や汚れも落としてしまいたい。
「おふろ! ボク、おふろいきたい!」
「よし、善は急げだ」
俺とネムリは宿屋を出ると人に道をたずねながら公衆浴場へ向かった。
宿の近くにも小さい風呂屋があるようだったが、せっかくはじめての冒険を達成した記念にすこしだけ贅沢しよう。
ちょっと離れた、歓楽街にほど近い大きめの風呂屋に足を運んだ。
俺たちの泊まっている宿屋がいくつも建てられそうな広い敷地に大きな風呂屋が店を構えていた。
入り口には番頭らしき男が座っていて、男湯と女湯に客をより分けるようだな。
「いらっしゃいませ。おふたりですね」
「男二人で一人は子どもだ」
「銅貨3枚になります。お入りになったら青い印のある脱衣所へお進みください」
金を支払って建物に入り、休憩所と売店の前を通過して青いマークのついた入り口から中に入った。
脱衣所はがらん、としていた。
こんな昼前から風呂に入る変わり者は俺とネムリくらいしかいないようだ。
みんな仕事をしているのだろう。
まっとうな職を持つ街人がのんびり風呂屋でくつろぐ時間ではない。
俺とネムリはちゃっちゃと服を脱いで浴場へ向かった。