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アイテム生成とネムリの秘密

 買い出しからもどった俺は部屋の様子をうかがった。

 酒飲み大人勢はいまだに睡眠中、ネムリだけがベッドの上で毛布にくるまって起き上がっていた。


「おはよう、ネムリ」


「お、おはよう、シュー」


 昨日よりもしっかりとした受け答え。

 こころも体もだいぶ休まったみたいだな。


「おなか空いてないか?」


「うん、空いてる」


「じゃあ、一階に降りて食べよう」


 ネムリはベッドから降りると床に転がる酔死体をそろりそろりと避けて、とととっと俺のもとまでやってきた。

 ちっこいせいもあるんだろうが、なんかこう、ペットみたいな愛らしさがあるな。


 俺はネムリを部屋から連れ出し、階段を降りて宿のオヤジに朝ごはんをお願いした。

 宿の一階は一応、酒場にもなっているがこんな朝から規則正しく起きてくる客はほとんどいなかった。

 斜向かいにテーブルについて、俺はさっそく空きビンをいくつか取り出した。


「ネムリ、いくつか確認しておきたいことがあるんだが、聞いていいか?」


「う、うん、いいよ!」


 ネムリは急に緊張した面持ちになった。

 そんなに固くならなくて大丈夫だよ。

 俺は空きビンに水を半分ほど入れた。


「ネムリはなぜあんなところに一人でいたんだ?」


 ダンジョンの最深部に子どもがたった一人。

 奇妙な話だった。


「えっと、他の人たちとパーティを組んでたんだけど、オーガを見てすぐにいなくなっちゃったんだ」


「……なるほど、置き去りにされたってことか」


 ベルナンディアの件といい、仲間を見捨てるやつが多すぎる。

 気持ちはわからなくはない。

 おそらくはじめての冒険でゴブリンやオーガと命をかけて戦わなければいけないんだ。

 恐くなってあたりまえだ。

 無理のない話だと思いつつ、それでもパーティを組んだ以上は仲間も連れて逃げるべきだろうと思ってしまう。


 宿屋のオヤジがネムリにパンとスープを持ってきた。

 ネムリは恥ずかしがりながらも小さくお礼を言った。


 俺は水の入ったビンに向けて、火の呪文を唱えた。

 正確には火の魔法に用いる魔力の流れをビンの中の水に集中させる。

 すると水の色がだんだんと赤みを帯びていき、うすく透明がかった赤色の水になった。


「シュー、それなあに?」


 ネムリがパンをちぎりながら聞いてきた。


「これはな、火属性の魔力を武器に上乗せするエンチャントアイテムさ」


 レベルとしてはブロンズ1級の《火属性付与ファイア・エンチャント》の魔法だ。

 ただし、俺の作成したマジックアイテムは魔力の混じり具合、圧縮濃度が通常より濃かった。

 これはおそらくアイテムマスターとしてのクラスボーナスなのだろう。

 アイテム作成時にできたアイテムの効能を倍加することができるようだ。

 ストルフのダンジョンで作成した薬草水も通常以上の効き目で俺たちのHPを回復してくれていた。


 いま作った《火属性付与ファイア・エンチャント》のポーションも本来ならブロンズ1級程度の効果しかないが、目の前にあるものはきっとブロンズ3級くらいの魔法効果が見込めるだろう。

 モンスターの中には属性の弱点を持つものもいる。

 あるいは魔法攻撃しか効かないなんて厄介なやつもいる。

 そんなときにウィザードがいれば何も問題ないがパーティにウィザードがいない、あるいはウィザードのMPが底をついているときなんかにこうした属性付与のアイテムはたいへん重宝される。


「シュー、すごい……!」


「まあ、これくらいはな」


 照れ隠しに鼻先をこすった。


「んで、ネムリがあんなところにいた理由はわかったがもう一つ聞きたい」


 それは簡単な疑問だ。

 ゴブリンやオーガなどの知能の高くないモンスターは人間をわざわざ生け捕りにしたりしない。

 目にすればまっすぐ襲いかかってくるのがやつらの習性だ。

 それなのに連中はネムリを襲ってはいなかった。

 友好的にも見えなかったが、少なくともすぐに危害を加えるような素振りは見られなかった。


「その、んーと……」


 言いづらそうにネムリは口をもごもごさせる。

 あまり気乗りしない話なのかもしれない。

 しかし、同じパーティの仲間としてやっていくのであれば、ネムリとモンスターとの関係を明らかにしておかなくてはいけない。

 ここで理由を聞かなかったことで仲間の誰かが危険に見舞われたりしたら後悔してもし足りない。


「えっとね……じつはボク、デーモンの血が混じってるみたいなの」


 ネムリは声をひそめて俺にだけ聞こえるようにタネを明かしてくれた。

 ふむ、デーモンの血……と言われてもピンとこない。

 見た目はふつうの子どもだ。

 長い黒髪、丸くて幼い顔の輪郭、男の俺が言うのもなんだが女の子にも見えるくらいの美少年、か?

 あとは瞳の色が青いのが特徴的といえばそうだがけっしてデーモンらしい特徴とは言えないだろう。


「なにかデーモンだっていう証はあるのか?」


 問うとネムリは唇を片側だけ持ち上げてみせた。

 そうして歯をしまってから、


「ね、とがってる歯があったでしょ?」


「犬歯なら誰でもそれくらい尖ってないか?」


「うう、やっぱり信じてくれないよね……」


 あ、まずい。地雷を踏んだか?


「いや、信じないってわけじゃないぞ。ただ、まわりから見ただけだとお前はふつうの人間っぽいってだけだ」


 スープをすすりながらネムリは俺の顔を上目づかいで見上げてくる。

 うーん、信じてると言うのは簡単だが、そんな軽薄なウソをついていいものか。


「そうだ。ネムリ、お前の頭のなかでレベルとかスキルとか見られるだろ? そこに種族名も書いてあるんじゃないか?」


 我ながら名案を思いついたものだ。

 これなら客観的にネムリの種族が判定されるから誰を恨むこともない。


「えーと…………にんげん、って書いてあるみたい」


「え、人間なのか? 悪魔とかデーモンじゃなくて?」


 いったいどういうことなのか、さっぱりわからない。

 だが、俺以上にきっとネムリ本人のほうが混乱している。


「うーん、なんでだろう……」


「一応、デーモンの血が混じってるからモンスターに攻撃されなかった、ってことなんだよな?」


「そうだと思うんだけど……」


 どういうことだろう。

 本当にデーモンの血が混じっているのか。

 あるいは混じってはいるものの、血が薄すぎて種族名としては人間と表記されているとかそういうことだろうか。


「まあ、考えてもわからないな、これは」


 俺はそれ以上の追究をやめて空きビンに水を入れた。


「あ、でも一つデーモンっぽいことあるよ」


 ネムリは最後の意地を張るかのように続けた。


「なんかね、ボク、シューのこと好きみたい」


「ありがとな。でも、それとデーモンがどうつながるんだ?」


 俺は氷の魔法を使うときの魔力の流れを意識し、その先をビンの中の水に集中させた。

 ビンの水はうっすらと青みがかり、《氷属性付与アイス・エンチャント》のポーションが完成した。


「なんかね、シューからいいにおいがして好きだよ」


「え、俺、なんか変なにおいするのか?」


 手や腕のにおいを嗅いでみる。

 特別、妙なにおいはしないと思うのだが。

 俺は次々と空きビンに水を入れ、《火属性付与ファイア・エンチャント》と《氷属性付与アイス・エンチャント》のポーションを量産した。


「変なにおいじゃなくていいにおいだよ! ボク、シューのにおい好きー」


 えへへ、とネムリは無邪気に笑った。

 うーん、においが好きなのとデーモンがどうつながるんだ?


「なんかね、シューのこと、おいしそうって思っちゃう」


「まてまて、俺はおいしくないぞ。食べても腹壊すだけだぞ。やめておけ」


「たべないよ〜。ただ、なんとなくおいしそうって思うだけ」


 それがネムリの考えるデーモンらしさ、ということか。

 ふむ、人間の俺のにおいがおいしそうだなんて、まあたしかに悪魔っぽい発想と言えなくもないか。


 俺は砂を入れておいたビンをいくつもテーブルに転がした。

 その一つに先ほどと同じく火の魔法を唱えるときの魔力の流れを意識する。


「シュー、それはなあに?」


「これか?」


 火の魔法といっても今度は《火属性付与ファイア・エンチャント》ではなく、《火属性耐性ファイア・レジスト》の呪文だ。

 魔力を流し込むとビンの中の砂がさらさらと渦を巻き、しだいに赤色を帯びていった。

 うすく赤色になった砂は動きを止めた。

火属性耐性ファイア・レジスト》のポーションの完成だ。

 これもさっきの《火属性付与ファイア・エンチャント》のポーションと似たようなもので、名前のとおりこちらは火属性に対する耐性を付加することができる。

 これなんかもプリーストがパーティにいれば必要ないのだが、まあ重宝される場面は多々ある代物だ。

 これも先ほどと同じくブロンズ3級ほどの効能は持ち合わせているようだ。


「へぇー、シューっていろんなアイテムを作れるんだね」


 もぐもぐとパンを頬張りながら感心している。

 俺は次のビンの砂に氷の魔法を使うときの魔力を流し込んでいった。

 うすく青色になった砂、《氷属性耐性アイス・レジスト》のポーションの完成だ。


「まあな。アイテムマスターとしていろいろ工作はできるんだが、こういったマジックアイテムも作れるのは俺の特性かもしれないな」


 昨日のダンジョンでレベルが上がったことで使える魔法の種類も増えた。

 通常ならウィザードやプリーストでなければ習得できない魔法を扱えるのは、おそらく転生前に俺が積み重ねてきた経験のためだろう。

 俺は《火属性耐性ファイア・レジスト》のポーションと《氷属性耐性アイス・レジスト》のポーションを量産した。

 エンチャントとレジストのポーションを作りつづけたせいか、MPが底をつき、そこはかとなく体がだるい。

 レベルが低いうちはアイテム作成もあまり無理できないな。

 MPは自然に回復するとはいえ、体調に影響が出るのはちょっとイヤだ。

 俺は水をすこし口に含んでノドの渇きを癒した。

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