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清々しくない朝

 近くにぬくもりを感じて目覚めると、ちょうど抱きかかえるような形でネムリといっしょのベッドで横になっていた。

 窓から差し込む光が朝を告げていた。

 俺はネムリを起こさないよう気をつけながらベッドから降りた。

 部屋から出て共用の洗面所で顔を洗うと頭の中がクリアになってきた。

 うん、思い出したくない現実を思い出してきたぞ。

 宿屋のオヤジに聞いてみるとどうもケイウッドやベルナンディアらしき人物は宿に泊まっていないらしい。

 ああ、やっぱり。

 二日酔いになっているわけでもないのに頭が痛くなってきた。


 宿屋を出てすぐ近くの冒険者ギルド、もとい酒場に顔を出すとそこには死屍累々と表現したくなるような光景が広がっていた。

 昨夜のバカ騒ぎで酔いつぶれたバカ野郎たちがあちこちに横たわって眠っていた。

 そんなひどいありさまの中で、


「お、シュージ、朝酒を飲みにきたのかの?」


 平然と酒を煽っているベルナンディアさんがいらっしゃった。


「え、ベルナンディア、ずっと飲んでたのか?」


「話し相手がいればいくらでもいけるぞ。なあ、メルティエ?」


「あ、はい。そう、です、ね……」


 ベルナンディアのとなりで女性がげっそりした表情をしていた。

 昨夜、俺の身代わりとして置いていった金髪のお姉さんだった。

 まだ飲んでたのか、というか、よくベルナンディアに付き合っていられたな。

 俺は申し訳なさ半分、呆れ半分で心の中でお姉さんに謝った。


「ベルナンディア、さすがにそろそろ酒飲むのやめような。となりのメルティエさんも顔色が限界だ」


「ふむ、しかたないのう」


 最後のエールを飲み干して、となりのメルティエさんの背中をバシバシ叩いた。


「楽しかったの! またいつでも一緒に飲もうぞ」


「は、はい。……う、きもちわる」


 メルティエさんが急に口を覆ったので俺は慌てて彼女に肩を貸し、酒場の外に出た。

 酒場の横のわき道に入り、壁際まで誘導するとメルティエさんは壁に手をついてしゃがみこみ、虹色の液体を吐き出した。

 俺はメルティエさんの背中をさすってやりながら、心のなかで何遍も謝った。

 すいません。ホントすいません。

 でもまさかうちのドワーフ娘があそこまでザルだとはさすがに予想できなかったんです。すいません。

 何度も中身を吐き出し、ようやく治まったようだ。


「大丈夫ですか?」


「ええ、なんとか……」


 俺は水袋を取り出し、彼女に飲ませた。

 顔は青いものの、なんとか歩けるようだったので俺たちの泊まっている宿まで連れていった。

 俺の身代わりにした挙句、道ばたに放置するのはさすがに俺の良心が許さなかった。

 俺は宿屋のオヤジに追加の宿泊代を支払い、ネムリの眠っている部屋まで連れていった。

 ネムリの寝ている向かいのベッドにメルティエさんを寝かしてやって、ため息をついた。

 ひと晩中、あれに付き合って飲んでいたのだから、これはちょっとやそっとじゃ回復しないだろう。


「メルティエさん、ゆっくり寝てていいですからね。枕元に水袋を置いておきますから」


 メルティエさんはまばたきだけで返事をするとすぐに寝息を立てはじめた。

 ホントごめんなさい。

 無関係の人をこんなことに巻き込んでしまい、俺もケイウッドのことを悪く言えないなと自嘲した。


 それから俺はふたたび酒場にもどり、ベルナンディアに宿屋の場所を教えた。


「ここを出て斜向かいの「勇猛な雄牛亭」という宿屋だ。そこの二階の奥の部屋でネムリとメルティエさんが寝ている」


「あい了解じゃ。わしは床でも構わんからの。一眠りしてくるわい」


 ベルナンディアは足どりもたしかに酒場を出ていった。

 あいつとは絶対にいっしょに酒を飲まないと誓うぞ、俺は。

 それから床に転がっている酔っ払いどもの山からわれらがリーダー、ケイウッドを探し出す。


「おーい、起きろ、ケイウッド。朝だぞ」


 よだれを垂らして眠りこけている盗賊に話しかけるが、ダメだこりゃ。

 ぜんぜん起きる気配がない。

 しかたない、奥の手を使うか。


「おいケイウッド起きろ! すごい美人がこっち見てるぞ!」


「んあ、美人、美人どこ? どこ?」


 寝ぼけながらも美人というワードに反応して目を覚ます色ボケリーダーの頬を軽くはたいてやる。


「おら、起きろケイウッド。もう朝だ」


 どうしようもないリーダーに肩を貸してやり、無理やりにでも立たせてやる。


「あれ、シュージ? 美人はどこ、う……きもちわる」


 うわあ、既視感。

 俺は急いでケイウッドとともに酒場から出て横のわき道に入った。

 ケイウッドを壁に手をつかせてやると、案の定、虹色の液体を大量に吐き出した。

 しかたないから背中をさすってやる。

 これ、さっきもやった。

 何度も中身を吐き出して、ようやく治まったようだ。


「大丈夫か、ケイウッド?」


「あ、ああ、なんとか……」


 ダメだな、これは。

 もう一度、ケイウッドに肩を貸し、宿屋「勇猛な雄牛亭」の俺たちの部屋に連れ込んで水を飲ませてやった。


「ケイウッド、悪いがベッドの空きがない」


「大丈夫、だ……。もうちょっと、寝る……」


 それだけ言うとケイウッドはふたたび眠りの淵に落ちていった。

 部屋全体を見まわすとベッドで安らかに眠るネムリ、青い顔のメルティエさん、床に爆睡しているベルナンディア、気分の悪そうな顔のケイウッドが転がっている。

 もうなんつーか、ほんと最悪な朝だ……。

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