思わぬ新入り
ダンジョンから出ると仲間たちが待っていてくれた。
「収穫はあったかい?」
「残念ながらハズレだ」
「それは惜しかったのう」
ベルナンディアの笑みには何か含みがあった。
「それはいったいどういう意味だ?」
「簡単なことだよシュージ。もしお宝ザックザクだったりしたら、街にもどってパーッとやるときにシュージ持ちにしようってベルナンディアちゃんと話してたのさ」
「ああ、残念じゃ残念じゃ。人の金で飲む酒ほど美味いものはないというのに」
まったくひどいやつらだ。
仲間の金をあてにしてメシの算段とは。
「じゃあ、はじめてのダンジョン攻略を祝してここはリーダーがおごるっていうのがいいんじゃないか?」
「ほうほう、それも良い考えじゃな」
ベルナンディアもなかなか話を合わせるのがうまい。
「え、いや、オレお金ないからね。ホントにお金ないからね!」
「ない袖をがむしゃらにふってこそリーダーの威厳は保たれるんじゃないかね?」
「うむ、その通りじゃな」
「ちょ、ちょっと二人とも! ホントにお金ないんだってばー!」
人質にされていた子は俺に手を引かれながら、俺たちの戯れ言を不思議そうに聞いていた。
どうもこの子は俺が食糧を与えたためか、俺になついている節がある。
なぜ、あんなところにいたのかとか、名前や家族のこととか聞きたいことは山ほどあるが、疲れているせいか、あまり答えてくれなかった。
とりあえず街にもどってしかるべきところに預けてあげるのがいいだろう。
親や家族が心配しているかもしれない。
おごるおごらないで盛り上がっている二人に簡単に確認をする。
「なあ、街についたらまず冒険者ギルドでこの子のことを話して、引き取ってもらうってことでいいよな?」
「んー、まあ迷子なら迷子で待ってる家族もいるだろうしねえ」
「それが無難じゃろうな」
二人の同意を得たので俺は子どもに説明する。
「俺たちは街についたら君を冒険者ギルドに預けることにする。あそこなら安全だし、いろいろ面倒も見てくれるだろう」
俺がそう言うとその子は手に力をこめ、
「イヤ、だ……。シューと、いっしょ……」
駄々をこねられてしまった。
「ずいぶんと懐かれておるのう」
「シュージ、意外と子守りの仕事とか向いてるかもな」
ケラケラ笑うナルシストの頭をこん棒で一発殴りたい。
俺はやさしい口調を心がけて説明した。
「あのな、俺たちは冒険者をやっていて、今日みたいにモンスターと戦うことがこれからもたくさんあるんだ。だから、君をそんな危険なところに連れてはいけないんだ」
子どもはジッと俺を見上げて、
「シュー、冒険者?」
「ああ、危険と隣り合わせの冒険者だ」
「ボクも、ぼうけんしゃ……」
「え?」
「ほう」
驚きの発言に俺たちは思わず固まった。
「え、冒険者なのか? 悪いが魔法で確認させてもらうぞ?」
俺は《状態目視》の魔法を発動させた。
魔法によって表示された情報によると、なるほど、たしかにクラス名に「神官」と記されている。
それとともに名前の欄には「ネムリ」とあった。
「プリースト……マジか」
「え、シュージ、ホントに?」
「驚きの事実じゃな」
俺は頭をかきながら、
「あー、ネムリ、でいいのか?」
「うん……」
「冒険者なのはわかった。だが、俺たちの冒険はけっして安全じゃない。だから、俺といっしょにいると危険だということだ。わかるか?」
「うん、わかる……」
「それでもいっしょにいたいっていうのか?」
「シューと、いっしょがいい……。ボクも、たたかう……」
なんてこった。
プリーストの仲間が増えるというのはありがたい。
だが、どう見ても子どもだし、俺になついているとなると、つまり、要するに、俺が面倒見なくちゃいけないわけで。
「シュージ、いっそのこと子守りにクラスチェンジしたら?」
「こうして手を繋いでいる姿を見ると親子に見えなくもないぞ」
外野は黙っててくれ。
てかリーダーはそれでいいのかよ!
「ん? シュージのこと好きみたいだし、シュージが面倒見るならいいんじゃない?」
「そうじゃな。危険な場所はわしらが守れば何とかなるじゃろ」
ベルナンディアさんも悪ノリしないでくれる?
「ボクがいたら、ジャマ……?」
あーずるい。ずるいセリフきたわー。
「そんなことはないが、本当に冒険者は危険なんだぞ? それでいいのか?」
黒髪の子ども、ネムリはためらいなく、こくりとうなずいた。
「それじゃ、これからよろしくね、ネムリ」
「危ないときはわしがちゃんと守ってやるから安心せい。よろしくな」
「うん、よろしく……!」
ネムリはうれしそうに微笑を浮かべた。
そんな顔されたら嫌とは言えなくなるじゃないか。
おちゃらけ盗賊だけでも面倒なのに、また一つ、厄介ごとが増えてしまった。
俺は深々とため息をついた。