人質の子ども
「ベルナンディア、ケガはないか?」
「無事じゃ。オーガの攻撃は受けておらんし、ゴブリンの打撃など我が「防御力向上」の前では石のつぶてほども効かんわ」
はじめて会ったときと同様、ベルナンディアの顔には不敵な笑みか浮かんでいた。
どうやら戦闘に自信があるためか、戦いの前後には闘争本能のようなものが燃え上がるらしい。
俺はまだしも、ケイウッドは完全におびえている。
「ベルナンディアちゃん、すごいけど、なんかこえー……」
「かっかっかっ、わしが怖いか、ケイウッド。わしの恐ろしさはこんなものではないぞ?」
おびえるケイウッドを追撃するベルナンディアはこれ、完全にからかってるな。
「まあ無事で何よりだ。すまないな、オーガを任せてしまって」
「なんのこれしき。耐久力に長けた者が敵の首魁を押さえ込んでいただけのこと。ヌシらの助力があったからこそ攻勢に打って出ることができた。こちらこそ感謝しておるぞ」
さっきまでとは打って変わって柔和な笑顔になった。
やはり戦闘においてのみ、ドワーフの性質なのか、非情になる面があるのかもしれないな。
ふつうに会話しているだけならこんなにもあたたかみのある表情で話すことができるのだから。
「さて、ケイウッド」
「おうさ」
広間の入口に避難させていた黒髪の子どもをケイウッドが手を引いて連れてきた。
「君、ケガはないか? どこか痛いところとかは?」
俺はひざを地面につけ、目線の高さを合わせて話しかけた。
「あ……う」
「ゆっくりでいい。こんなところで一人きりだったんだ。怖かっただろう?」
「このわらし、男児かの?」
ケイウッドが子どもの頭をやさしくなでてやりながら、
「ほら、オレたちはキミを助けたんだ。怖がらなくていいんだよ」
「ボク……う……」
子どもは俺のほうを見て口の端からよだれを垂らした。
そうか、腹が減っているのか。
「ほら、水も食べものもあるぞ。ゆっくり食べな」
俺が《無限の宝庫》から水袋とリンゴを取り出すと、よろけながら俺に抱きつき、リンゴを持つ手に噛みついた。
「いてて、おいおい、手じゃなくてリンゴを食べてくれ」
頭を押し返してリンゴをくわえさせてやると、子どもは黙々とリンゴをかじりはじめた。
やはり腹を空かしていたらしい。
何はともあれ、救い出すことができてよかった。
俺たちは今回の人質救出作戦が成功したことをうなずきあって喜んだ。