省スペース
広間にもどると俺たちが倒したゴブリンの死体が転がっていた。
俺の脳裏に《即応換金》のスキル名がチラつく。
そうか、この世界だとモンスターを倒しても自動的にお金やアイテムがドロップするわけじゃないんだな。
「ケイウッド、ベルナンディア。倒したゴブリンはどうする?」
「通常なら耳など体の一部を切り取って冒険者ギルドに報告じゃの」
「お、倒した敵と数によって報酬がもらえるってやつだよね」
なるほど、そういうシステムか。
で、おそらく俺のスキルはそのプロセスを省略することができるっぽいな。
「二人とも冒険者ギルドに報告だな? ゴブリンのこん棒と楯はどうする?」
二人は俺の質問の意図がいまいち読めないようだった。
そりゃそうだよな。
「わしはこの《巨人殺し》があるから特に必要ないのう」
「オレもいらないよ。叩くよりは斬る、受けるよりは避ける、だからな」
「よし、わかった」
脳裏に浮かんでいた《即応換金》を発動させる。
魔力の流れは知覚できたが消費はしないようだな。
スキルが発動すると五体のゴブリンの体が金色の光に包まれ、強くまたたいたかと思うとそのまま消え去った。
「え、な、なに? 何が起こったの?」
困惑するケイウッドに説明をしようとしたら、
「シュージ、今のはヌシのスキルじゃな?」
横からベルナンディアが驚き半分、感心半分といった表情で俺に確認してきた。
さすが理解が速い。
五体のゴブリンと四体の装備品はおそらく冒険者ギルドへ、こん棒1本と木製楯1つは《無限の宝庫》にしまった。
借りたナイフ1本では心もとないからな。
「いまのは商人のスキルで、倒したモンスターやその装備品なんかをその場で換金できるんだ。たぶん、倒したモンスターとかが冒険者ギルドに転送されてるんじゃないかな」
「なにそれ! すげー!」
「ほう、それはまた便利なスキルじゃな」
「ベルナンディアちゃん、シュージの便利さはこんなもんじゃないよ」
人を便利グッズみたいに言うな。
「シュージの固有スキルはどんなアイテムや荷物もしまっておけるんだ」
「ほうほう、それはまた……」
しかたないから俺は《無限の宝庫》から手に入れたばかりのこん棒と木製楯を取り出してみせた。
「ほお、これはまた奇っ怪な……。先に泉で水や食べものをどこからか取り出していたのも、今のスキルによるものかの?」
「ふふん、そういうことさ!」
なんでお前が得意そうなんだ。
「ベルナンディアちゃんもしまってほしいものがあったら言いなよ。何でもしまえて荷物が軽くなるよ」
だからなんでお前が言うんだ。
「良いのか、シュージ?」
まあ、パーティの仲間になったのだからそれくらいは構わないが。
俺はベルナンディアが背負っていた道具袋を亜空間にしまった。
「便利なスキルじゃのう」
「まあな。ただ、実戦で使えないから正直な評価は微妙なところだ」
「何いってんだシュージ。そのスキルのおかげで超快適に冒険ができるんだよ? めちゃくちゃいいスキルじゃないか!」
「うーん、そんなもんかなあ」
誉められて悪い気はしない。
アイテムコレクターとしてはたしかにもっとも役立つスキルでもある、か。
「シュージがいれば収納いらず!」
前言撤回。
やっぱりなんか釈然としない。
俺のスキルをただの収納スキルと呼ばせないような何かを取り入れたいな。
いずれこのスキルにも何らかの工夫を施すことを心に決めた。