戦わずして生き延びる方法
「ん?」
俺たちのほうに向かってくるラージスライムの出方を警戒していると何やら様子がおかしいことに気付いた。
俺たちに敵意をもっているというより、何かから逃げているような必死さがあった。
少なくとも俺たちを溶かして食料にしようとしているようには見えない。
「それなら……!」
無理して戦う必要はない。
やり方は他にもある。
俺は《無限の宝庫》から空きビンを取り出し、頭のなかで念じた。
脳裏にさまざまな初級スキルの名前が並んでいる、そのうちの一つ。
それを思い浮かべて全身をめぐる魔力を意識した。
迫りくるラージスライムに手をかざし、掌中の小瓶に魔力が流れ込むイメージを形成する。
ビンに十分な魔力が満ちたとき、ラージスライムはすぐ目の前に迫っていた。
「シュージ……!」
できる。俺ならきっとできる!
「《魔物の懐柔》!」
その瞬間、たしかに魔力の流れを知覚した。
小瓶が緑色の光に包まれ、その光が目前のラージスライムを覆い尽くす。
俺の魔力がラージスライムの意識と接触した一瞬、怯えのような感情が伝わってきた。
緑色の光がひときわ強く輝いた次の瞬間、ラージスライムは姿を消していた。
「しゅ、シュージ?」
「どうやら成功したみたいだ」
安堵のため息が漏れる。
「もう大丈夫だぜ」
俺はフタをされたビンを振ってみせた。
ビンのなかには時間が止まってミニチュアのようになった青く半透明なスライムが閉じ込められていた。