解放
かざした手のひらから炎の元素がチラチラとメルティエの額に吸い込まれていく。
純粋に元素を操っているだけで熱くはないようだ。
メルティエは炎精霊に向かって顔を上げ、目を閉じて受け入れている。
次第にメルティエの全身から赤い炎元素が舞い上がった。
いや、それだけではない。
少しずつ緑の粒子も混ざり始め、さらには青い粒子も噴き出し始めた。
「キレイ……」
ネムリがぽつりとつぶやいたのもうなずける。
赤と緑と青の粒子がメルティエの体から立ちのぼり、ゆっくり混ざり、交差しながら消えていく。
幻想的にも思える光景に誰もが目が釘付けになった。
『終わったぞ』
しばらくして炎精霊がかざしていた手を離すと、メルティエから噴き出ていた粒子も収まっていった。
「これは、いったい……」
『お前の魔力回路のねじれを解消した。しかし、めずらしいものだな。自然、火、水、三種もの魔法適性をもつエルフ族とは』
メルティエは驚きを隠せず、
「さ、三種の、魔法適性……?」
『扱える属性が増えるほど魔力回路は複雑化する。二種までならともかく、三種以上ともなれば余程の才でもない限り、ねじれや詰まりが生じるのは当然の理だ』
メルティエはいまだ自分の身に起こったことが理解できない様子で呆然としていた。
楽観的な盗賊がいち早く駆け寄り、
「やったじゃんかメルティエ! これで自然魔法が使えるってことだろ!」
ネムリも走って抱きつき、
「メル、すごい!」
「まさかそういう事情があったとはな」
俺とベルナンディアも近寄りながら、
「三種の属性魔法を操れるとなれば、もはや魔導師というより賢者じゃな」
わなわなと震える自分の両手を見つめていたメルティエに炎精霊が言った。
『簡易な魔法で試してみるがよい』
我を取り戻したメルティエは一度こぶしを作り、開いた。
手のひらを上に向けて意識を集中させていく。
緑の粒子と青い粒子がゆっくりと立ちのぼり、両手のひらの間に小さな水球が生じた。
そして水の中央に草花の種が生まれ、茎をわずかに伸ばし、若々しい双葉が芽吹いた。
まわりから感嘆の声があがる中、メルティエは静かに涙をこぼした。
「使えた……。わたしが、自然魔法を……」
喜びで崩れそうになるメルティエを、同じ自然魔法の使い手であるベルナンディアが腰を抱いて支えてあげた。




