元素の高まり
俺たちはあくまで警戒を解かぬまま、炎の精霊との対話を試みた。
「聞きたい。ファイア・エレメンタル、お前はなぜこんなところにいる? 何が目的だ?」
対話が成立したと見て警戒をゆるめたのか、炎の精霊は高度を落として地面すれすれまで降りてきた。
『慌てるな。順を追って説明する』
落ちついた動きをしてはいるがまだ警戒を解くわけにはいかない。
炎の精霊は上位の火魔法すら操る危険な存在だ。
一瞬、油断したがために全員丸焦げになったらシャレにもならない。
炎の精霊はゆっくりとした口調で脳内に語りかけてきた。
『我は元来、大陸の東、バーンドレッドにいた』
バーンドレッド。
大陸中央に位置する商業都市イムネマから見て北東の地域。
蛮族たちが互いに牽制し合う、砂漠と熱波の領域だ。
大陸でも特に炎の元素が強い地域……嘘をついているわけではなさそうだ。
『炎の元素が地底を通じてこちらの地域に流れ込んでいた。それ自体は自然なことだ。だが近年、こちらの元素の高まりが強すぎることに懸念を抱いた』
炎の精霊はまるで人間のように腕を組んでみせた。
『お前たちは大陸の元素の在り方について、知識があるか?』
俺は「コレクターズ」の知識で多少は知っているが、ここはこの世界に住まう者が答えたほうが正確だろう。
仲間たちに目配せすると、精霊とも対話ができると言われるエルフ族のメルティエが代表して言葉を返した。
「ええ、存じています。大陸の西、海に面した地域は水の元素が強く、あなた様がいた北東のバーンドレッド地方は火の元素が強い。間に挟まれた大陸北部、山岳地帯は自然の、中でも土の元素が強く、大陸の南から南西、スペディオ帝国の地域は風の元素が強い。そして南東のホウワノ聖教国の地域では神聖の元素が集中しています」
『うむ、正しい認識だ、エルフ族の娘よ』
炎の精霊は満足そうにうなずいた。