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対話
突如として現れた炎の精霊への驚きも消えぬまま、俺たちは今までの経験から咄嗟に戦闘態勢に入った。
俺は仲間に指示を飛ばそうとし、しかし脳裏に響いた低い男の声に遮られた。
『待て、ヒト族よ』
炎の精霊には顔の目にあたる部分が空洞になっているだけで口や鼻はついていない。
ただただ燃え盛る炎の元素の人型から声だけが聞こえてくる。
『我に争う意志はない。対話を望む』
頭に直接、響く声には知性があった。
モンスターでありながら対話を望む?
ぬぐいきれない違和感に思わず王都の三魔族たちを思い出した。
ヤツらは魔族でありながら知性があり、対話も交渉も可能だった。
純然たる元素の集合体である炎の精霊であれば、むしろ人間への敵意は薄いのではないか。
……対話も可能なのか?
俺は警戒をゆるめずに仲間たちの顔を確認し、炎の精霊に返答した。
「わかった。話を聞こう」