悔しくないもん
しばらく灼熱の炎が燃え盛り、ゆっくりと竜巻が消えていくと、焼けこげた後に残ったのは倒れてすすまみれになり、目をまわしている少女だった。
メルティエの卓越したコントロールのおかげで傷ひとつ付いていない。
周囲の酸素が燃焼に使われたことで軽い酸欠で倒れただけだった。
「勝負あり、じゃな」
「なんで止めてやらなかったんだよ」
「あやつには、外にもっともっと広い世界があることを知ってほしかったのじゃ」
「姉心かねぇ」
ひとり身の俺にはよくわからない感情だ。
かわいい子には旅をさせよ的な感じなのだろうか。
ベスメディアの顔のすすをハンカチで拭いてあげているメルティエのもとへ行き、水袋を渡してやる。
水を飲まされて意識を取り戻したベスメディアはゆっくりと起き上がり、メルティエから距離を置いた。
「……約束だから、あなたを姉様の婚約者と認めてあげます」
小さな体を小刻みに震わせ、目を潤ませながら、
「でも! ……私の義理の姉としてはけっして認めてやらないのです!」
精一杯の意地を張った。
どういう理屈かはさっぱりわからないが、とりあえず一件落着ということで良いみたいだ。