親切なダンジョン
いざ洞窟の入口をくぐると思ったよりも明るい光景に思わず驚いた。
なんとダンジョン内部には壁のところどころに松明が掲げられていた。
ずいぶんとご丁寧で親切なことだ。
やはり冒険者ギルドが管理しているというウワサは本当なのかもしれないな。
それと同時にイムネマで灯りとなる松明を買い忘れていたことに気づく。
以後、気を付けなければいけない。
「なあシュージ、この場合とりあえずどうするよ?」
こめかみに汗を垂らしながらケイウッドは四方に警戒の視線を向けていた。
その姿に昔の自分を重ね合わせて何ともなつかしい気分になった。
俺もはじめての冒険のときは周囲のすべてに緊張し、気を張りつめていた。
「大丈夫だ、ケイウッド。緊張しすぎだ。そんなんだと気が滅入っちまうぞ」
「き、緊張なんかしてないぞ! ただ、敵がいないか警戒してるだけだ!」
「安心しろって。モンスターが現れるときはだいたい気配でわかる」
「そ、そういうものか……」
ケイウッドは額の汗をぬぐい、構えていたナイフを下ろした。
はじめてのダンジョンで緊張するのはわかるが、その緊張はだいたい徒労に終わる。
野生のモンスターは息づかいや声をひそめて気配を消したりはしない。
だから、たいていは冒険者のほうが先に気づいて先制攻撃をしかけるか、戦闘になる前に引き返して逃げることができる。
「水でも飲むか?」
「いや、大丈夫だ」
ケイウッドは深呼吸をして、大きく伸びをした。
肩をまわして緊張をほぐす。いい判断だ。
「ところで先頭はどっちが歩くんだ?」
「あ、そっか。オレ盗賊か」
「おいおい……」
通常ならパーティの先頭は目や耳の利く盗賊が任されるものだが今のケイウッドにその荷は重い。
とりあえずダンジョンの雰囲気に慣れてもらうことを優先したほうがいいだろう。
まあしかたない。
「俺が前衛を務めるからお前は背後を警戒してくれ」
「お、おう! 任されたぜ!」
ケイウッドは安堵のため息をついて俺のうしろにまわった。