《鬼祓いの魔眼》
「丁寧に扱えよ」
そばの鬼人族に注意しながら手渡した。
魔眼を受け取ったオルカはうさんくさいものでも見るような目つきで、
「本当にこんなんで効き目があんのか?」
などとのたまった。
それに反して妹のイルカは素直なもので、
「兄上、さきほどの効果を目にされたでしょう? これはきっと、わたくしどもに光明をもたらしてくれるアイテムです!」
目を輝かせる妹の純真な眼差しにオルカはうるさそうに手ではらう素振りをした。
何事にも素直なイルカと何事にも皮肉を投げかけるオルカ。
粗野な兄に礼儀正しい妹と、兄妹といえど必ずしも似るものではないのだな、などと感想が浮かぶ。
「で、こいつをどうやって使うんだ? まさかオレの目ん玉をくり抜けと言うんじゃねえだろうな」
「安心しろ。俺謹製のマジックアイテムは痛みもなく楽にスッポリいける」
出来の悪いアイテムの場合はオルカの言ったような装着方法が必要であったりもする。
マジックアイテムは造り手の技量によって効能も利便性もピンキリだ。
俺くらいのレベルになれば使い勝手だけでなく、その効果も確かな逸品に仕上げることができる。
ここら辺はさすがにアイテムマスターの名に恥じない働きをしなければ俺の名が廃る。
オルカが剣士としての矜恃を持つのと同様に、俺にだってアイテムに関しては自分の領分として譲れないものがある。
「魔眼を目に近づけてみろ。右でも左でもいい。自分の目に重ねるようなイメージを思い描きながら近づけるんだ」
みんなが見守る中、オルカは仕方ないとでも言いたげな素振りで透明な眼球を近づけていく。
眼球が左のまぶたに触れるかどうか、というところでスっと消えた。
目を見開いたオルカは辺りを見回す。
「おい、なんも変わんねえぞ」
「目に魔力を注いでみろ。花瓶に水を入れるように、なるべく丁寧にな」
オルカは一旦、目をつむり、一切の動きを止めた。
集中が伝わってくる。
再び目を開けたオルカは驚いたように息を飲んだ。
「調子はどうだ?」
「輪郭が、青く見えやがる……」
まわりのみんなを次々に見回し、最後に俺のほうを向く。
「魔力探知の能力だ。魔眼に魔力を注いだ状態ではそれが常態になる。魔力祓いの能力は対象を絞って強く念じれば発動するはずだ。相応の魔力は消耗するがな」
俺たち周囲の者からはオルカの左目に薄青い紋様が浮かんでいるようにしか見えない。
「兄上、お加減は……?」
「不思議な感覚だ……。だが不快じゃあねえ」
「なら結構だ。ついでに名前も付けてやるといい。逸品にはそれにふさわしい呼び名が必要だ」
シロナという鬼人族の《鬼殺しの麝香》に対抗するための魔眼、その名前は……。
「《鬼祓いの魔眼》……、これであいつから村を取り戻す!」
決意に満ちた表情にイルカとバンドウが大きくうなずいた。




