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慈悲
バランスを保てなくなった巨人が大地に倒れ込んだ。地響きに俺たちの体も揺れる。
全身から血しぶきをあげる巨人に先程までの脅威はない。重傷を負った巨躯は痛みにもがき、騎士と剣士は容赦なく裂傷を刻み付けていく。
オルカの苛烈な剣技も見事だが、巨人特効の上乗せされたベルナンディアの猛攻は鬼気迫るものがあった。両手斧の一振りごとに部位が削り取られ、巨人を変形させていく。
ベルナンディアの一撃が腕を両断したところで俺は声をあげた。
「ベルナンディア、もういい! トドメをさしてやれ!」
もう勝敗は決している。これ以上の戦闘はいたずらに痛みを与えるだけだ。いっそ息の根を止めてやるほうがよほど慈悲深い。
ピタリと動きを止め、振り上げていた斧を下ろした。
大量に返り血を浴びたベルナンディアは興が醒めたようで、つまらなそうな顔で巨人の首をはねた。
「……巨人も、この程度なのかのぅ」
斧を肩に背負い、ポツリとこぼしたつぶやきに答える者はいなかった。




