分散
思わぬ光景に目を奪われたが驚いてばかりもいられない。
サイクロプスの邪眼の効力は証明された。
あとはそれを手に入れるのみ。
「メルティエ、エルスラ、ついてきてくれ! ケイウッドは他のみんなとサイクロプスの気を引いて、ベルナンディア、ネムリは防御魔法をみんなに! 時間を稼いでくれればいい! オルカたちも無理はするな! 目標はあの邪眼だ! 傷付けてくれるなよ!」
指示するが早いか、俺は横穴から飛び出した。
背後についてくる足音が二つ。
ケイウッドのかけ声とともに魔法を詠唱する声が遠ざかっていく。
俺はスワンプ・ヒドラの注意を引くため、二体の巨大モンスターの周囲をぐるりと迂回した。
スワンプ・ヒドラは沼地に棲息し、また周囲を沼地に変質させるモンスターでもある。
沼に足を取られないよう気持ち遠めに距離を取る。
こんな山奥に沼蛇がいるなんてありえない。
森の奥地や川のほとりで稀に目撃されるならわかる。
それがまさか隻眼巨人のテリトリーを侵し、あまつさえ戦闘しているなど通常では考えられることではない。
だが、今はそんなことを気にかけている状況でもない。
二体を軸にぐるりと半周した俺は手短に指示を飛ばした。
「メルティエ、《迸る紫電》を巨人に絡みつく頭に!」
「任せてください!」
呪文の詠唱とともに魔法陣が浮かび上がり、メルティエの足もとから腰まで昇ったところで収束。
「《迸る紫電》!」
つき出した指先から白い雷光がバチバチと音を立てて宙を切り裂いた。
直後、巨人に絡みついていた多頭の首すじをうねった光条が貫く。
響き渡る絶叫の多重奏。
貫通した電流が黒い焦げ跡を残し、蛇の頭は巨人への拘束をゆるめた。
「エルスラ、今だ! 引き離してくれ!」
「御命令のままに」
すかさずエルスラがスワンプ・ヒドラの太い尾を脇に抱え込み、力ずくで引き剥がした。
目を凝らさないと分からないが、エルスラの腕やメイド服の細部が微妙に変形し、ヒドラの鱗の隙間、凹凸にピッタリ張り付いている。
エルスラの膂力以上に力が緻密に伝わり、ヒドラはあっさりと引き剥がされ、巨人とは反対側に放り投げられた。
これでさしあたりサイクロプスの邪眼は守られた。
あとは向こうでケイウッドたちが引き付けておいてくれるだろう。
俺は仲間を信じ、投げ出されたスワンプ・ヒドラに向き直った。
さっそく胴体の触れている大地が湿り気を帯び、沼へと化していく。
こいつをどうするか。
滅多に見られない沼の魔物である。
そうとなれば俄然、俺のコレクターとしての血が騒ぐのだった。