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邪眼
沼蛇のいくつもの頭がそろって口を開けた。
……魔法が来る!
複数の頭の先から大量の黒い霧が生まれ、またたく間に巨人の足から腰へ這い上がっていく。
シルバー級の邪悪魔法《死の黒霧》、それも多頭による多重詠唱。
霧をわずかでも吸い込めばたちまち命を落とす危険な魔法。
だが隻眼の巨人は焦ることもなく悠々と見下ろし、駆け上がってくる霧に向けてその一つ目を見開いた。
カッ、と黒い光が走ると同時、今にも巨体を覆わんとする黒霧がピタリと動きを止めた。
そして固まった黒霧は風に吹かれた砂のようにサラサラと崩れていった。
魔力祓いの邪眼。
一つ目の邪悪なる巨人、サイクロプスの特異にして驚異的な能力。
魔法を寄せ付けぬがために危険視される所以。
そして今回、俺たちが手に入れるべき目標物。
その威力はウワサに違わぬ代物だった。