はじめてのダンジョン
ストルフのダンジョンにつくと、ちょうど冒険を終えたらしいパーティが洞窟から出てきた。
ちょうどいい。ちょっと聞いてみよう。
「すみません、ちょっと聞きたいんですけどー」
そのパーティはこころよく質問に答えてくれた。
「ふむふむ、そんな感じか」
「お、おいシュージ、何がどういう感じだって?」
ダンジョンについてから、どこか及び腰というか、普段の威勢のかけらもなくなってしまったケイウッドさんである。
「レベル4の5人パーティで難なくクリアできたってさ」
「れ、レベル4、5人だと……?」
「レベル3と1の二人組でやってきた俺たちは正直、バカで無謀な冒険者野郎ということになるな」
「おい! それを言うな!」
ようやく事の無計画さを理解できたのか、ケイウッドは頭を抱えてうめき声をあげた。
「あのなぁ……。いくら初心者向けのダンジョンだからって、たった2人で攻略しようなんてハナから乱暴な考えだってわかってたことじゃないか」
「いや、街からちょっと行ったところにあるし、正直、一人でも楽勝だろうって思ってた……」
バカだ、バカがいる……。
いくら実戦経験がないからってモンスターとの戦闘を甘く見すぎだろう。
仮にも命をかけるんだ。
レベルはもちろん、仲間の人数だって多いに越したことはない。
ケイウッドはすこし青い顔をして気分も悪そうだった。
まったく、しかたのないやつだな。
「あのな、無茶はハナから承知だ。でも、お前は俺をパーティに誘った。つまり、1人より2人でダンジョンを攻略しようと考えたってことだ。これは冒険者として自分の命を守る上でとても重大な判断だ」
話を持ち出した本人がビビってしまっては格好がつかないだろう?
「お前はその判断ができたんだ。自分を誇れ。そして、俺はこんな初級のダンジョンで死ぬつもりはない。お前を死なせるつもりもない」
青ざめていたケイウッドの顔に少しずつ赤みが差してくる。
「俺はこんなダンジョン、さっさとクリアして冒険者ギルドで報酬をもらうつもりだ。その金でエールを飲んで、腹いっぱいメシを食ってやる」
俺の顔を見つめるケイウッドの表情からこわばった気配がうすれていく。
「だから、お前も堂々としていろ。こんなダンジョン、軽くクリアするつもりでいろ。お前が危なくなったら俺が必ず守る。パーティとはそういうものだ。そのためにお前は俺を誘ったんだろう?」
言葉の力も使いようだ。
人を傷付けることもできれば、勇気を与えることもできる。
ケイウッドの顔にもう恐れはなかった。
「……頼りにしてるぜ、相棒」
「任せろ」
覚悟を決めたケイウッドは冒険者の顔になっていた。
死を恐れない者は優秀な冒険者になれない。
死を覚悟し、恐れ、それでも必死に抗う者にこそ、冒険者の資格がある。
そして、このはじめてのダンジョンを攻略することで、俺とケイウッドははじめて冒険者としての一歩を踏み出すことができるのだ。