勝ちどき
ドラゴンの口もとに赤い色が灯る。
まずい、ブレスがくる。
「サリア! ファイアレジストを!」
「無理よ! MPが底をついてる!」
アリアスの指示にプリーストのサリアが悲鳴をあげた。
「デルド!」
「やってるともさ!」
ウィザードのデルドが残されたMPをすべてつぎ込んで呪文の詠唱に精神を集中させている。
眼前のドラゴンもあちこちが傷つき、あとひと押しで打ち倒せるのがわかる。
だが、デルドの魔法よりドラゴンのブレスのほうが先に発動するのは誰の目にもあきらかだった。
「くそ! ここまで来て!」
アリアスの悪態が吐き捨てられるが早いか、ドラゴンの口からあふれる炎の塊が俺たちに向けて吐き出された。
そのとき、俺はずっと機会を見計らって握っていたアイテムをドラゴン目がけて投げつけた。
小瓶は空中でパリンと割れ、中から光かがやく無数の粉があたり一面にいっきに広がった。
「なっ……!」
アリアスの驚きの声より速く、《夜光蝶の鱗粉》が俺たちの頭上に撒き散らされる。
直後、吐き出されたドラゴンのブレスが鱗粉に激突した。
そして、炎のブレスは俺たちを焼き焦がすどころか、キラキラ光る鱗粉に遮られて勢いを失っていく。
まるで鱗粉によって鎮火されたかのように炎は小さくなり、俺たちに届くことなく消失した。
「サンキュー、シュウジ! ほおら、これでも喰らいな!」
デルドの詠唱が完了し、ドラゴンの頭上に白銀の詠唱紋が多重展開される。
一拍。
冷気を帯びた巨大な氷柱が高速で落下し、ドラゴンの首から胴体を貫いた。
断末魔の咆哮をあげたドラゴンは力を失ってゆっくりと地面に倒れ込んだ。
なんのことはない。
伝説級のモンスターであろうと、仲間と力を合わせれば倒すことができるのだ。
アリアスはじめ、俺たちパーティは勝利の勝ちどきをあげた。