帰還
「騎士団長、四大貴族、冒険者たち、そして鬼人族よ、大儀であった」
王都に帰還した俺たちはまず王に報告にあがった。
長であるオルカ以外の鬼人族たちは俺の屋敷に置いてきた。
玉座の間には魔侯爵から帰還したときと同じく、王様と騎士団副長のチョビひげの男くらいしかいなかった。
それだけこの報告は機密の内容になると踏んでいるのだろう。
「では代表として騎士団長、此度の戦の報告をしてくれるか?」
「はっ!」
ガルドはダングスト侯爵指揮のもと、騎士団が《狂戦士化》したオーク軍と戦いこれを撃破、王都を防衛したことを述べた。
また同時に俺たち冒険者や鬼人族でもう一方のオーク軍の侵攻を防ぎ、なおかつ指揮官、そしてオークロードなる化け物を撃退した旨を手短に伝えた。
活躍として俺たちの功績を正当に評価してくれるところにガルドの人の良さが表れている。
「よくわかった。冒険者らと鬼人族のほうには王国の治安を守ってくれた礼として褒美を取らせよう。だが騎士団長よ、そしてダングスト侯爵はじめ陣頭指揮を取った貴族の皆よ、そなたらの働きもこの王都を守護したものでありその功績は高い評価に値するものと知るがよい」
「もったいなきお言葉」
これには騎士団長のみならず、貴族派閥のダングスト侯爵やコルケス男爵も深く頭を下げて平伏した。
魔侯爵のときも思ったが部下の活躍を正しく評価できるのも上に立つ者の大切な資質なのだな。
この王はその点において立派な王者の品位がある。
派閥争いはあれど、王が尽力して国の未来を憂えているかぎり、間違った方向には進まないだろう。
「さて、レンドル南方伯よ。そなたのことだ、また何か特別な報酬でもねだる気ではあるまいな?」
先手を打たれてしまった。
だが俺はわがままで図々しいから自重はしない。
「恐れながら陛下、今回もお願いしたい儀がございます」
「ふむ、言うてみるがよい」
「此度の戦で騎士団はもちろん、冒険者、ひいては鬼人族の助力も趨勢を決する重要な戦力でありました。そして彼らとは平和的な交流を行えることを奇しくも証明できたかと存じます。つきましてはエルフやドワーフといった種族だけでなく、知性と誇りある亜人種とも友好的な関係を築く旨のお触れを出していただけないかと具申いたします」
「人間、お前……!」
オルカは驚いた顔で俺の言葉を受け止めた。
「王よ、これは王国が知性ある種族であれば偏見や差別なく受け入れる懐の深さを有することを国内外に知らしめるいい機会でございます。これにより王国は他国より亜人種に対しての融和政策を積極的に取っていることを喧伝し、交易の活発化だけでなく、此度のような有事の際には助勢を求められることにも繋がり、王国の堅固な防衛力をいっそう高めることにもなるでしょう。これは同時に他国に対する牽制にもなるかと思われます」
「ふむ……」
王は一つ唸って考え込んだ。
そう易々と決められることではない。
だが、俺の弁舌にメリットを感じているのも確かだろう。
そして、亜人種嫌いなダングスト侯が苦々しい思いをしているであろう気配がうかがえて俺は内心、愉快に感じた。
「うむ、即決するわけにはいかないが貴公の言にも理はある。前向きに検討しよう」
「ありがたく存じます」
俺たちは各自、特別報酬を受け取って玉座の間を後にした。
貴族派閥の二人は不機嫌そうにいなくなり、ガルドは重ねて俺やコルシェ、パトリシア、オルカに礼を述べて去っていった。
「オルカ、先の話はお前たちに恩を着せるつもりで言ったわけではないぞ。持ちつ持たれつ、ってやつだ」
「ったく、食えねえ野郎だぜ。協力関係っつう鎖でオレたちを縛り付けやがった」
「見返りとして王国領内に公然の居場所を作ってやったんだ。そう恨むなよ」
「根に持ちはしねえよ。これであいつらもこの国の庇護下に入る。安寧は金でも買えねえ」
オルカの視線が宙に向けられた。
感謝の言葉こそないものの、オルカの表情にはめずらしく柔和な笑みが浮かんでいた。
部族の長として、仲間たちに安全な暮らしを提供できるのは喜ばしいことなのだろう。
残ったアレクセイは俺に小声で「後日、また会おう。礼をしたい」とだけ告げて去っていった。
「深緑の森」のリーダー、コルシェは全員を見まわし、
「私からも礼を言わせてくれ。君たちのおかげで今回の危機を退けることができた」
軽く頭を下げ、そして、
「シュージ、ケイウッド、不肖の妹の面倒をこれからも見てやってほしい。よろしく頼む」
より深い会釈をするのだった。
当たりはキツかったが、やはり悪い仲ではないのだな。
カルバンも「メルティ、元気にやるんだよ〜。寂しくなったらいつでも兄さんのところへ帰っておいで〜」と恥ずかしげもなく兄バカぶりを発揮していた。
パトリシアも俺たちに向き直って謝罪と礼を述べた。
オーク軍との戦いでは援護射撃もしたからだろう。
「わたしたちはみんなの足を引っ張っていたわ。ごめんなさい」
「うちなんてなんも役に立てへんかったわ……」
めずらしくナルミがしおらしい。
「いや、パトリシアたちも十分に戦力になっていたさ。おかげで助かったよ」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。それと今回の経験でわたしたち、以前より強くなれたみたい。おそらくゴールドクラスにランクが上がるはずよ」
「お、王国4番目のゴールドクラスパーティの誕生だね。それじゃあお祝いをしなくちゃ。シュージの屋敷でいいよね?」
すかさずケイウッドが割って入ってきた。まったくこのお調子者はしょうがないな。
だが、冒険者ギルドの酒場を指定しなかったのはオルカたち鬼人族も祝宴&祝勝会に参加させる意図があってのことだろう。
そういうところは意外と気がまわる。
「深緑の森」は次の仕事があるからと参加を断られてしまった。
「少しは休めばいいのにー」とボヤくケイウッドに「彼らなりのやり方があるのじゃろう」とベルナンディア。
仕事があるというのは口実かもしれない。
あまり長く兄弟と一緒にいると離れるのがつらくなってしまうから。
彼らには彼らなりの距離のとり方があるのだろう。
「よし、みんな! 今夜は飲んで飲んで飲み明かすぞ!」
俺のひと声にみんなは快哉を叫んだ。




