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狂える豚の王

 どっしりとした巨体のハイオークは言葉通り俺たちを見下ろし、低い野太い声で嘲笑った。


「オーガに人間、エルフにドワーフ……。木っ端の寄せ集めごときに狂化した我が軍が押し退けられたか。醜態も甚だしいな」


「豚風情がわきまえやがれ! 地べたに這いつくばるのがてめえらに似合いだ!」


 すかさずオルカが吠え返した。

 だが、眼前にたたずむハイオークは今まで戦ってきたオーク兵とは何もかもが違った。

 体躯もさることながら、まとっている気配が尋常ではない。

 あの真の姿を見せたときの魔侯爵にも引けを取らない殺気、あるいは闘気とでもいうべき力の波動が周囲ににじみ出ている。

 気迫では負けていないものの、オルカたち鬼人族だけで立ち向かっていたらおそらく勝ち目がなかっただろう。

 冒険者の俺たち全員で力を合わせてどうにかなるかどうか、といったところか。

 ムダだとは思うが、まずは言葉を交わしてみよう。


「お前は何者だ? オーク軍の指揮官で間違いないか?」


「指揮官?」


 何がおかしいか、鼻で笑われた。


「我はオークの頂点に座する王、マドン。眷属どもは我の僕であり、同胞であり、糧である。我が威光に魅入られて生けるものを貪り、蹂躙するがその天命よ」


「シュージ、どういうこと?」


 小声で聞いてきたケイウッドに、


「統治はしない、勝手にしろ、っていう無責任な暴君なんだろう」


 つまりはやりたい放題の王様にやりたい放題の下々が勝手に付き従っているということなのだろう。

 これじゃあ話し合いで解決なんて望むべくもない。


「時間の無駄だ。豚は斬り捨てる以外に道はねえ」


「然りじゃ。斬って道を切り拓く他に手はなかろうな」


 すでに臨戦態勢に入っているオルカとベルナンディアはオークの王の痺れるような殺気に感応していた。

 それぞれの得物を握りしめ、魔法の光が彼らを包み始めていた。


 対するマドンも禍々しくデコボコに歪曲した赤黒い剣、《狂戦士の魔剣ファナティック・オーク》をその手に掴んでいた。

 《狂戦士化バーサーク》したオーク族のみが装備できる狂気の魔剣。

 狂乱状態でなければ装備できないことから死をも恐れない兵士がその命と引き換えに敵を道連れにする時に使われるものだ。

 しかし、マドンの様子を見るにやつは正気を失っていない。

 いや、平常時の精神がそもそも狂気の色に染まっているとしたら狂人であることが常態ということか。

 在り方そのものが狂乱を常とする者。

 さしずめ狂豚王とでも呼ぶべきか。


 俺は《無限の宝庫アナザーポケット》から《中位回復・全体キュア・ウーンズ・オール》のスクロールを取り出して使用した。

 その場にいる全員の体を緑色の光が包み、体力を回復させた。

 それからそれぞれのパーティが各個に強化魔法を唱えていく。


 俺たちパーティ「ケイウッド」はベルナンディアの《防御力向上・重ロック・アーマー・デュアル》とネムリの《魔法防御壁・重マジック・シールド・デュアル》、ケイウッドのスキルの《加速アクセラレーション》を多重詠唱して身体能力の強化を図った。

 また、ベルナンディアは固有スキルの《大地の城塞グランドヘイム》でさらなる堅固さを得ていた。


 俺は《伝達メッセージ》のスクロールで全員に作戦を伝えた。

 マドンもオーク固有魔法を唱え、その巨体は赤黒い光に覆われていた。

 準備が整い、前衛がマドンと対峙する。


「脆弱な生き物よ、すぐ楽にしてやろう」


 マドンが天を衝く咆哮を上げ、ベルナンディアとオルカが駆け出した。

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