炎の激励
俺は騎士たちの目に付くよう、高度を下げた。
そして衆目を集める中、前線の少し奥、密集するオーク軍の頭上に移動した。
手にしたスクロールの一枚を放ると赤い光で燃えるように端から消失した。
代わりに生み出される、いくつもの火の魔力の元素。
その一つ一つを核として膨張し、無数の火の玉が生み出されていく。
「《火球・雨》……!」
すっかり大きくなった火球の群れは、俺の言葉を皮切りにオーク軍の頭上に降り注いだ。
爆散する火球の雨に絶叫を残しながら、オーク軍の一部は焼き崩れた。
移動しながらオークの軍勢の中央部に次から次へと《火球・雨》のスクロールを撒いていった。
降り注ぐ火球群はさながらはるか天空から降り落ちる隕石のようにも見えた。
燃え盛り、焼き尽くす炎にまかれてオーク軍の過半数が倒れていった。
こんなものでいいか。
俺は前線にもどり、突然の事態にあっけに取られている騎士たちに向かって、中空から発破をかけた。
「騎士たちよ、私はレンドル南方伯である! 同時に冒険者である! 貴殿らの騎士としての誇りはどこへ行った! 冒険者にも劣る戦意しか持たない臆病者は、王都に帰ってママのミルクでも飲んでいたまえ! 凱旋して勝利の美酒を味わいたい勇者はガルド騎士団長に続け! 豚どもの侵攻を許すな! これを駆逐し、もって騎士の誇りを示してみせよ!」
呆けていた騎士たちから少しずつ、やがて大きな渦となって雄叫びが上がった。
「騎士団の意地を見せてやる!」「伯爵様に負けるな!」「冒険者にできて我々にできぬはずがない!」と様々な形で騎士たちの戦意に火が灯った。
騎士としての自負心に燃える者、四大貴族である俺を慕う者、冒険者である俺に反発する者、どのような形であれ彼ら全員に戦う気力が蘇ったのであればそれでいい。
数では負けていないのだ。
あとは士気の高さで負けなければ勝てない道理はない。
俺は最前線のガルドのそばへ降り立ち、剣を抜いてオークに斬りかかった。
「シュージ殿、感謝する!」
ガルドがオークを斬り伏せ、目礼をした。
「あれくらいの演技で戦意を高揚させられるなら、いくらでも道化になりますよ」
「貴殿は、まったく……」
ガルドは大きく息を吸い込み、
「皆の者、私に続け! オークどもに王国騎士団の誇りと忠義、その身をもって思い知らせてやれ!」
背後の部下たちを戦地へと引きずりあげた。




