下準備
ナイフ1本を借りて、いざダンジョンへ……潜る前にすこし寄りたいところがあった。
「なあシュージ、どこに行くんだよ」
「あのなケイウッド、武器と防具だけあれば冒険できるわけじゃないんだ。お前は腹が減ったりノドが渇いたりしないのか?」
そう、水や食糧を最低限、持ち歩かないことにはダンジョン探索もままならない。
幸いにもストルフのダンジョンはこのイムネマから歩いて小一時間ほどの距離なので、日帰り探索をくり返すこともできなくはない。
だが、それではダンジョン踏破までに時間がかかるし、何よりそんなピクニックみたいなやり方をしていると気持ちがダレてくる。
こういうのはちょっと非効率でも勢いが大事なものなんだ。
特にモンスターと命をかけて戦うわけだから、気持ちの持ちようは思いの外、大事だったりする。
俺は大通りの露天商で二日分の水と干し芋、干し肉、それと青リンゴや酸味のあるベリーなどを購入した。
もちろんケイウッドの金で。
それとアイテム屋にも寄り道した。
「アイテムショップ グース」という看板がかかっている小さな店で、しかし店内は思ったより小綺麗で商品のアイテムが棚に整然と並んでいる。
「おいシュージ、アイテムまで買う金はないぞ」
「わかってるって。目的は別だ」
この店は「コレクターズ」の世界では初級冒険者から中級冒険者向けのアイテムと、稀にめずらしいアイテムが売られていることがあった。
よく通っていた店なのでだいたいの品揃えは覚えている。
「……なるほど、そこらへんも違うのか」
「何の話だ?」
「いや、なんでもない」
露天商で水や食糧を買えたのと同様に、やはりこの世界ではゲームとは若干、異なる部分がある。
この店で売られている商品のラインナップも俺の記憶にあるものとは少し違っている。
それに大きく違っているのは、
「オヤジさん、手のひらに収まるくらいの小ぶりの空きビンはないかい?」
「いらっしゃい。あんた、見ない顔だな。空きビンならあるにはあるが、いったい何に使うんだい?」
「まあちょっと入れたいものがあってさ。10本ほど買うから少しまけてくれないか?」
「あんた、商売上手だな。へへ、いいぜ。安くしとくよ」
うん、アイテム屋のオヤジの愛想がいい。
ゲームでは無愛想なオッサンだったのだが、明るい性格のオヤジに変わっている。
それにリアルな会話ができるから交渉して値下げできるのもこの世界ならではの要素だろう。
やはりファンタジーな世界はいい。最高だ。
これから命をかけたダンジョン探索だというのに、緊張よりもむしろワクワクして気分が高揚するのを感じた。