騎士団の名誉とは
「ダングスト侯、ひょっとしてオークが怖いのですか?」
「なんだとッ!」
俺はイヤミたっぷりに堅物を挑発した。
「騎士団の名誉がどうとか言ってますが、それならなおのこと王国騎士団を率いて先頭に立って戦わなければ四大貴族の名が廃るのではないですかねえ?」
「私は戦を恐れているのではない! オーガなどという野蛮な連中と手を組むことこそ騎士団の名折れだと言うておる!」
「そこですよ。名誉を保つために王国騎士団は戦に参加しなければならない。これは間違いないでしょう。オーガが野蛮であろうがなかろうが、戦に参加しようがしまいが、そんなことは関係ない。論点がズレています。王国騎士団が先頭に立って戦うか否か、ここに騎士団の名誉がかかっているのです」
正論に正論を重ね、俺はトドメとなる急所ねらいの一撃を放ってやった。
「ダングスト侯、覚えておいでですか? アンデッドの大軍が攻めてきたレンドル防衛戦での騎士団の行動を。彼らは慣れないアンデッドとの戦いを恐れ、あまつさえ冒険者と共闘することを疎んじて戦闘に参加しなかった。結果、アンデッドの大軍は私たち冒険者が殲滅した。このような不名誉を貴公はくり返すおつもりですか?」
「くっ、若僧の分際で……!」
反論がない。
ということは騎士団の名誉に泥を塗ったレンドルでの戦闘不参加は、ダングスト侯のなかでも誇りに傷をつける苦い思いを味わわされた事件として扱われていると推察できる。
それならば、心に刺さったトゲを抜く飴を与えてやればいい。
「此度のオーク討伐戦で騎士団が勇猛に戦えば、先刻の不名誉をそそぐことにもなりえましょう。他種族がどうのと考えるより、この戦でいかに騎士団の名誉が回復できるかを一番に考えることが、結果的にダングスト侯の主張なさる主旨をもっとも達成せしめることができるのではないでしょうか?」
俺の弁舌にダングスト侯は苦々しい顔をしながらうなり声をあげた。
これで丸め込めたことになるだろうか。
もしもこの場にケイウッドやベルナンディアがいたらまたぞろ「シュージは人を誘導して言うとおりにさせる天才だね」だの「ヌシが冒険者を辞めたら詐欺師にだけはなるでないぞ?」とか散々なことを言われそうだな。
とりあえずダングスト侯の「ハイオーガはキライ!」問題はうやむやにしてごまかせてホッとした。




