お金がない
「で、ケイウッドさんや」
「なんじゃらほいほい」
こういうノリだけは評価してやらないこともない。
「お金貸して」
「カツアゲこっわ! オレのほうがレベル高いのにこの初心者こっわ!」
わざとらしく両腕をさすりながら口をすぼめた。
なんとなく、こいつの扱い方がわかってきた気がする。
「いや、だって俺、無一文だよ? 装備ゼロだよ? 死にに行くようなものじゃん?」
《無限の宝庫》から手頃な装備品を見繕うこともできるが、なんとなくゼロからスタートするのも初心を思い出して楽しそうな気がしてきている。
ゲームでもお金や装備の足りない序盤って一番ワクワクして楽しいよね。
「え、でもオレだってそんなにお金ないアルよ?」
「どっちだよ」
「なくはないけどそんなにないよ」
「もういいからサイフの中身、ここにバーッと出しちまおうぜ。いい子だからよ、ケガしねえうちにさ」
俺は不良のような口調でカツアゲ、もといケイウッドの所持金をテーブルの上に開示させた。
「……これで全部?」
テーブルの上に散らばった硬貨を確認する。
銀色のものが1枚。褐色のものが3枚。以上。
「ケイウッド、これはどういうことか説明しろ」
「いいかいシュージ、よく覚えておけ。メシを食うには金がかかる。だが、見栄を張ったメシを食うにはもっと金がかかる」
「だまれバカ野郎」
貨幣の価値を日本円で表すなら、大雑把ではあるがだいたいざっくり金貨が10万円、銀貨が1万円、銅貨が500円くらいだろうか。
少なくとも「コレクターズ」ではそれくらいの貨幣価値だった。
つまり、ケイウッドの銀貨1枚、銅貨3枚というのは日本円なら11500円程度にしかならない。
野宿して食事も節約すれば一週間くらいは生活できるだろう。
だが、これから俺たちがやろうとしていることはダンジョン探索だ。
文字どおり命をかけてモンスターと戦うわけだ。
そのために必要な武器や防具、アイテムを買うのにはそれなりにお金がかかる。
命を預けるわけだから当然だ。
初心者用のブロンズソードでも銀貨5枚、5万円くらいの値段はするだろう。
悲しいかな、たったこれだけの金で命を守るだけの準備はできないという悲しい現実がテーブルの上に重くのしかかっていた。
「いや、待てよ。お前さっき冒険者ギルドで男から金を巻き上げてたじゃないか。あれはどうした?」
「さっきの料理に使っちゃったテヘペロ」
俺は拳を固く握ってぶん殴りたい衝動に駆られたが、その料理を半分ほど自分も食べてしまったのだからケイウッドばかりを責められない。
まったく、ホントどうしようもない。
「しかたない。木の棒でも何でも、殴れそうなものを武器代わりに使うしかないか」
「待つんだ、シュージ」
仰々しく俺に手のひらを向けて言葉を遮る。
なんだよ、もうお前に期待なんかしてねえよ。
「これを貸してやる」
ケイウッドは腰からナイフを1本、鞘ごと外してテーブルの上に置いた。
そういえばナイフ2本持ってたな、こいつ。
「オレは遠距離から矢を放ち、接近戦では2本のナイフを自在に操って戦う優雅な盗賊だ」
「まだ一度も実戦経験ないけどな」
「そのオレの大切な大切な……銀貨2枚も! 銀貨2枚もしたナイフを貸してやる。大事に使えよ」
「おう、ブラザー……」
俺とケイウッドは久しぶりに再会した親友のように、がっしりと拳を打ち付けあった。