メルティエの気持ち
コルシェとカルバンはメルティエの双子の兄と姉であった。
こんなところで兄弟に会えるなんて奇遇にも程がある。
しかも二人とも「深緑の森」のパーティメンバーだったとは。
「メルティエ、こんなに美しいお姉さんがいたのなら教えてくれればよかったじゃんかよー」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんに会えてよかったね、メル」
「ええ、まあ……」
茶化すケイウッドと純朴に祝うネムリに、けれどメルティエは曖昧な苦笑いで返した。
んー、兄弟に会えたのに嬉しくない、のか?
「メルティエ、あなた、自然魔法は使えるようになったのですか?」
コルシェの問いにメルティエは気まずそうにうつむいたまま答えなかった。
言われてみるとメルティエが自然魔法を使っているところを見たことがない。
エルフ族は森の民とも言われる亜人種であり、古来より自然魔法を操るドルイドの力を生まれ持つと言われている。
一説では精霊の声を聞くこともできると言われるくらいだ。
コルシェの言葉から推測するに、どうやらメルティエは自然魔法が使えないらしい。
一族みんなが自然魔法を使えて当たり前な環境のなかで、自分だけがその能力を持たずに育ったということか。
そんな生い立ちを抱えながらメルティエは里を出て、冒険者として一人生活していた、と。
「自然魔法が使えないうちは森を出ないように言っておいたはずです。なぜこんなところにいるのですか?」
「まあまあコルシェ、メルティも思うところがあって冒険者になったんじゃない? これも成長だと思おうじゃないか」
カルバンがコルシェをなだめながらパーティのほうへ引っ張っていく。
去り際、俺たちに向かってウインクをした。
いくら美形とはいえ、男にウインクされてもまったく嬉しくないが、ふむ、なんとなく事情は察した。
俺やベルナンディアは軽くうなずいてカルバンに応えた。
自然魔法を使えず、よりにもよって火属性魔法を得意とするメルティエがこれまでどのような気持ちを抱えながら生きてきたのか。
いまはそっとしておこう。
もし機会があれば、そのときは腹を割って話を聞こうじゃないか。
俺たちは命を預けた仲間なんだから。
「メルティエ、俺はお前を信頼しているぞ」
「ヌシはヌシ以外の何者でもない。己の価値は己が決めるのじゃ」
「ボク、メルのこと好きだよ!」
「言葉より、資質より、行動と結果が貴方様の在り方を形づくるものと存じ上げます」
「ま、そういうことよな〜」
みんなでメルティエを囲んで声をかける。
俺たちはエルフだろうが自然魔法が使えなかろうが、メルティエをメルティエとして見ている。
「みんな、ありがとうございます……」
みんなの気持ちを受け取って、メルティエは気恥しそうにしながら、かすかに瞳を潤ませた。




