死合いの末
ベルナンディアの全身から真っ赤な血が噴き出した。
苦痛に歪む口もと。
だが彼女の目はまだ死んでいない。
宙から落ちてくるオルカに向かって両手斧を握りしめ、
「《月華残光・百連》!」
全力を込めた重撃が無数の残像を生み出し、空中で避けきれないオルカの全身をことごとく砕いた。
激しく打ち付けられたオルカは吹き飛ばされ、地面を転がった。
刀を杖にして立ち上がろうとするものの大量に吐血し、地面に膝をついた。
「そこまで!」
勝負は決した。
肩で息をするベルナンディアも傷だらけの血まみれだが、あの打撃の嵐を受けたオルカは全身を骨折し、打撲を負ったはずだ。
下手に動けば折れた骨が内臓を傷付けかねない。
これ以上の闘いは命にかかわる。
俺は《無限の宝庫》から《上級薬草水》を2本取り出し、ベルナンディアに駆け寄った。
「ベルナンディア、回復薬だ。飲め」
「悪いのう」
その顔は疲労よりもやりきった満足感に満ちていた。
ケイウッドやネムリたちも駆け寄り、ベルナンディアの傷を心配する声をかけた。
俺は、仲間のハイオーガたちに囲まれているオルカのもとへ向かった。
「兄上! 兄上……!」
オルカの隣で白と赤の巫女服姿のハイオーガが涙を流しながら叫んでいた。
近づいてきた俺に他のハイオーガたちは警戒の素振りを見せる。
「大丈夫……ではなさそうだな。君は彼の妹か? これを飲ませてやってくれ。飲めば傷が完治するはずだ」
巫女服の女の子に薬草水を渡そうとすると、
「姫様に近寄るな! それが毒物でないという保証もない!」
隣に控えていた濃紺の服のハイオーガ、バンドウといったか、彼が俺の動きを制するように鋭く叫んだ。
だが、こんな問答をしている間もオルカの命の火は小さくなっていく。
それを理解していたのは他ならぬオルカの妹だった。
「バンドウ、やめなさい! 兄上の命がかかっているのです。それにいまの闘いを見て、いまさら毒物を盛る理由がどこにあるのですか?」
涙をこぼしてはいるが冷静な判断力は残っているようだ。
できた妹さんのおかげでオルカは一命を取り留めたと言える。
俺は巫女服の妹に薬草水の小瓶を渡し、彼らの警戒心をとくために仲間たちのもとへ戻った。




