打ち合い
「《防御力向上・重》! 《重力圏内》!」
ベルナンディアが魔法を唱え、さらに防御力を向上させた。
また、彼女の周囲だけ景色が歪んで見えるのは重力負荷をかけたためだろう。
近接攻撃をしなければならないオルカのスピードを削ぐための魔法だ。
元来、速度に頼らない重量級のベルナンディアにとって、この程度の重力負荷は足かせになり得ない。
対するオルカも不敵な笑みを浮かべて、
「《沸騰する血液》! 《痛覚遮断》!」
さらなる身体能力向上の魔法と痛みを感じなくなるスキルを唱えた。
この二人、とことんまでやるつもりだな。
「ねえシュージ、本当に止めなくて大丈夫?」
「ヤバそうになったらどんな手を使ってでも止める」
おそるおそる聞いてくるケイウッドの気持ちもわかるが、ここで水を差すのも無粋だ。
ベルナンディアもオルカも、実力が伯仲する好敵手との戦闘に高揚している。
だが、エスカレートしすぎれば命にもかかわる。
ここぞというときには止めに入る覚悟をしておかなければ。
対峙する二人、ベルナンディアは土色の光に包まれ、オルカは赤色の闘気をまとっている。
三度の激突は両者同時に動いた。
上段から叩き下ろすオルカの斬撃を下段から斬り上げるベルナンディアの斬撃。
刀と両手斧が勢いよく衝突し、火花が散る。
衝撃に弾かれた二人のうち、オルカが先に動いて武器を持つベルナンディアの腕をねらう。
だが、先刻までのスピードが殺されているせいでベルナンディアの迎撃が間に合い、刃と刃がふたたび火花を散らした。
上、下、斜めとあらゆる角度から斬り込むオルカの攻撃を捌きつつ、時に防御を捨てて反撃を織り交ぜるベルナンディア。
斬撃を捌かれつつも捨て身の一撃を体のひねりによって直撃を避けるオルカ。
ベルナンディアには細かい切り傷が増え続け、オルカには打撃を受け流すごとに肉や骨への負荷が増してゆく。
オルカの攻撃を無視して放たれた両手斧の横薙ぎを、刀で受け流してその勢いのままオルカが宙に舞った。
そして頭から流れる血に片目をつぶりながら、刀を振り上げた。
「《桜吹雪》!」
振り下ろした刀から無数の桜の花びらが吹き出し、ベルナンディアの全身にビッシリと張り付いた。
「《裂》!」
直後、花びらのすべてが縦に裂け、同様に付着していた肌に亀裂を刻んだ。
ベルナンディアの全身から血しぶきが上がった。




