打と斬
踏み込んだオルカの刀が下段からベルナンディアを斬り上げた。
速い。
だが、ベルナンディアは大きく両手斧を後ろに引き、オルカの剣撃をそのまま肩で受けた。
「何ッ……!」
避ける素振りもなく、肩に負った傷から赤い血が宙に舞った。
代価を支払ったベルナンディアは、一転、無防備なオルカの横腹に全力を込めた重撃を叩き込んだ。
「くっ……!」
刀を振り抜いたオルカは勢いのままに身をよじり、体を回転させ、桜色の刀の腹に腕を添えてこれを受け止める。
ガギンッ、と硬質な轟音とともにオルカは吹き飛ばされ、だが身軽にも体勢を変えて足から地面に着地し、大地に二本の轍を残した。
打撃を受け止めた腕に痺れがあるのか、左右にふりながら、
「やるじゃねえか、ドワーフ」
「当たり前じゃ。わしは強いからのう。呆けておると命を落とすぞい」
両手斧を構え直しながらベルナンディアも挑発する。
まったく恐ろしい二人だ。
防御力に特化しているのを頼りに防御を捨てて一撃必殺の攻撃を繰り出すベルナンディアの豪胆さもさるものながら、おそらく固有スキルで防御力向上の効果を施したであろうベルナンディアに傷を負わせ、さらに態勢を崩しながらも直撃を避けた機転とそれを可能にした身軽さで自在に動きまわるオルカ。
どちらも化け物じみている。
純粋な白兵戦なら、この場にいる誰も二人には敵わないだろう。
オルカも刀を構え直し、ふたたび睨み合う。
直撃を受ければ間違いなく致命傷になる打撃のベルナンディア。
速度と機転で斬り刻む斬撃のオルカ。
緊迫の糸がピンと張りつめ、その静寂を破ったのはまたしてもオルカだった。
駆け出したオルカがベルナンディアの正面に達すると同時にベルナンディアも斧を引き、ダメージを覚悟して反撃しようと構えた瞬間、オルカの姿が消えた。
一瞬間後、オルカの姿がベルナンディアの背後に現れ、刀を振り抜いた姿勢で動きを止めた。
直後、ベルナンディアの横腹と腿、背中下部から血が噴き出した。
「……!」
いったい何が起きたのか。
隣のケイウッドに目を向けると、ケイウッドも信じられないものを見たとでもいうような驚愕の表情を顔面に貼り付けていた。
「ケイウッド、今のは……?」
「……ベルナンディアちゃんの正面で一瞬、止まったけど、あれはたぶん、フェイントだったんだ。あいつの体からピンク色の花びらみたいなものが噴き出して、すごい速さでベルナンディアちゃんの脇をすり抜けながら三回も攻撃した。あんな速さ、ありえないよ……」
目の利くケイウッドだからこそ認識できた攻撃だとすると、当然、ベルナンディアには見えなかっただろう。
認識の埒外の攻撃を受け、さっきよりも深い傷を三つも負わされた。
これはまずいぞ。
あんな攻撃を何度も受ければ体力が持たない。
「ヌシもやりおるのう」
「当たりめえだ。あいつらの頭をやってんだからよお」
素直な称賛と謙虚さのない自負心。
強者特有の己への絶対の自信がにじみ出ている。
ベルナンディアも相当だが、このオルカというハイオーガもかなり強い。
勝負の行方がわからなくなってきた。




