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ハイオーガの頭目

 鬼人族の集団は俺たちと一定の距離を取って歩みを止めた。


 間近で見るとみんな額から二本の角が生えており、和風の着物を身にまとっていた。

 男は腰から刀をさげ、女は錫杖を手にしている者が多い。

 この世界で言うとヒノ国の風俗を生活の基軸にして暮らしているのだろう。

 ゴブリンやオーガと異なり、日本の昔話に出てくる鬼に近い種族と捉えたほうが適切かもしれない。


 俺は集団の先頭に立つ男に向かって言葉を投げた。


「鬼人族よ、俺たちに害意はない。お前たちの目的を答えよ」


 濃紺の着物に身を包んだ先頭の男は腰の刀に手をかけながら答えた。


「貴様たちこそ何者だ! こんなところで一体何をしている!」


 もっともな疑問を返されてしまった。

 だが、魔族とこそこそ裏取引してました、なんて口が裂けても言えるはずがない。

 質問に答えないならこちらもこちらのやり方でアプローチするしかない。


「俺はアルヘルム王国四大貴族が一人、レンドル南方伯である。後ろにいる、同じく四大貴族が一人、ゴールドウィン子爵とともに彼の領内を案内してもらっていたところだ」


 男はわずかに驚きつつも俺の言葉のすき間に刃を差し込もうとした。


「馬車もなしに歩いて領地見学か? 笑わせるな!」


 痛いところを突いてくる。

 しかし頭がまわる男だ。

 どう対処すべきか……そう考えているところへぶっきらぼうな男の声が集団の奥から響いた。


「バンドウ、その辺にしておけ」


 声とともに集団が左右に割れ、その中央を白地に燃えさかる炎のような赤い紋様の入った洒落た着物の鬼人がゆっくりと歩いてくる。

 無精髭を生やし、長めの白髪を後ろでひっつめ、腰には二本の刀をさげ、その眼光には触れたら斬れるような殺気が込められ、俺たちを見据えていた。

 真紅の瞳に込められたその気迫は他の鬼人たちの比ではなかった。

 間違いなく手練だ。


「彼奴めが首魁じゃのう……」


 隣から悦びにうち震えるようなゆったりした声が聞こえた。

 あー、まずい。ベルナンディアのスイッチが入ってしまった。

 こうなると止めるのもめんどくさいんだよなぁ。


「ごちゃごちゃ言ってても始まらねえ。四の五の抜きに、刀を交えれば全てが解る。そう思わねえか、そこのちっこいドワーフよお?」


「気が合うのう、鬼人の」


 集団の先頭に立った鬼人族の長に呼応するようにベルナンディアが一歩前へ出る。

 向けられた殺気に体がうずくのだろう。

 俺の隣からケイウッドの怯えた声が聞こえた。


「ひー、おっかねえー。止めなくていいの、シュージ?」


 止められないこともないだろうが、奴が言ったように剣を交えたほうが話が早いのも事実。

 ここはベルナンディアに任せておけばよいだろう。


「あまりやりすぎるなよ?」


「それは彼奴の腕次第じゃ。約束はできんが善処はしよう」


 あーもう、どうにでもなれ。

 戦闘狂に言葉は届かない。

 届くのはただただ燃えさかる戦意と一太刀に乗せた覚悟のみ。

 俺とケイウッドはこの生産性のない、戦闘狂どもの決闘が無事に終わることを祈ることしかできなかった。

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